前回まで,録画予約/動画共有サービスというITビジネスにおいて著作権の間接侵害が問題となった事案を取り上げて,その争点を網羅的に解説してきました。私が紹介した裁判例の多くでは,IT企業の行為を違法と評価しており,適法にビジネスを展開することが困難な状況にあります。

 そこで今回は,IT企業がコンテンツの権利者から許諾を得ていないことを前提に,どうすれば適法にビジネスを展開できるのかを検討してみようと思います。私が思いつく限り,著作権の間接侵害が問題となり得るITビジネスを適法に実施するための方法には,以下の5つがあります。これらを順番に検討してみます。

  1. 「管理・支配の要件」及び「営利目的の要件」を備えないようにシステムを構成する
  2. IT企業が管理支配しているシステムにおいては,「複製」「送信可能化」等に該当しない技術やシステム構成を採用する
  3. 第三者の権利を侵害する著作物が「複製」等された場合は,これを削除するという運用を実施する
  4. 権利者から「黙示の許諾」を得るために努力をする
  5. 権利者からの許諾を得る

「管理・支配の要件」を回避すると魅力のないサービスになる

 まず最初に思い付く方法は,「管理・支配の要件」と「営利目的の要件」を備えないようにシステムを構成し,カラオケ法理における「侵害行為の主体」と評価されないようにすることです。ただし,営利を目的とする企業活動では,カラオケ法理の「営利目的の要件」を回避することは非常に困難です。そこで,管理・支配の要件を徹底的に薄める努力をするという発想になります。

 そのための対策としては,例えば,「会員登録制のビジネスモデルは採用しない」,「録画用パソコンに相当する機器をユーザーに購入してもらい,その他のハードウエア,ソフトウエアに汎用品を用いる」などが考えられます。しかし,このようなサービスでは十分な利便性や安全性を確保することが難しく,ユーザーにとって魅力がなくなってしまいます。

 そこで次に,サービスの魅力を損なわないように,構成機器をIT企業が「管理・支配」しながら,「複製」(著作権法98条),「送信可能化」(同法99条の2等,同法2条1項9号の2)に該当しない仕組みを採用する方法が考えられます。例えば,「『複製』に該当しないようにIT企業が管理・支配する機器(注1)にテレビ番組の録画データを保存せず,受信後直ちにユーザー側の機器にデータを転送する」,「『送信可能化』に該当しないように,IT企業が管理・支配する機器とユーザー側機器との通信は1対1とする」などの方法があり得ます。

 ただし,録画予約したユーザーだけが番組録画データにアクセス可能だったとしても,送信可能化に該当しないと考えるのは危険です。1台のサーバーに複数のユーザーがアクセスできる場合,1対1の通信とは判断されなかった裁判例があります()。

図●MYUTA事件におけるシステム構成の簡略図。ユーザーは携帯電話で鑑賞するための音楽データを事業主のサーバーに保存する
図●MYUTA事件におけるシステム構成の簡略図。ユーザーは携帯電話で鑑賞するための音楽データを事業主のサーバーに保存する

 これは東京地方裁判所が2007年5月25日に判決を下したMYUTA事件におけるサービスのシステム構成図です。このサービスは,「ユーザが,自己のパソコンからサービス事業主のサーバに音楽データを登録し,その音楽データをユーザの携帯電話にダウンロードして鑑賞する」(判決文より引用)というもので,「サーバ上から携帯電話に音楽データをダウンロードできるユーザは,当該音楽データを登録したユーザのみにアクセス制限」(同)されていました。

 同裁判の判決では,「『公衆』とは不特定の者又は特定多数の者をいうものであるところ,ユーザはその意味において本件サーバを設置する原告にとって不特定の者というべきである」として,1対1の通信になるとは判断しませんでした。このMYUTA事件の裁判例からすると,送信可能化権の要件である「公衆送信」は,各コンテンツが不特定または多数のユーザーに送信されているかどうかではなく,各サービスで使用しているサーバーなどのハードウエアから不特定または多数のユーザーに送信されているかどうかという点を基準に判断されているようです。

 従って,裁判で1対1の通信であると判断されるためには,IT企業側で管理・支配する物理的な機器類を,各ユーザー向けにそれぞれ独立した設備としなければならないと考えられます(注2)

 この第2の方法は,IT企業側でハードウエアなどを管理することを前提にしている点で,第1の方法よりも,ユーザーの利便性や安全性を確保しやすいと言えます。ただし,送信可能化権等の侵害とならないシステム構成が困難という点で,やはりサービス内容が制限されてしまうという問題があります。

侵害著作物の除去や黙示の許諾には課題が残る

 3番目に,第三者の権利を侵害する著作物が,サーバーにアップロードされた場合,IT企業の側でこれを削除するという運用手法があります。この方法は,サーバーにアップロードされる著作物が大量になればなるほど,手動での対応が困難になります。かといって,第三者の権利を侵害する著作物を自動的に削除することは,技術的に困難でしょう。

 次に,IT企業が,自らのサービスで著作物を取り扱うことを拒否する仕組みを公開し,これを周知することで,この仕組みを採用していない権利者の「黙示の許諾」を得るという方法が考えられます。米国の裁判では,この「黙示の許諾」を肯定した例も見受けられます。しかし,「サービスで取り扱うことを拒否する仕組みを公開して周知せしめること」が困難な上,このような仕組みを知らなかったと主張する権利者に対して無力であるという欠点があります。

 最後に,著作物の権利者から明示的に許諾を得るという方法が考えられます。もっともオーソドックスな方法ですが,ITビジネスで取り扱うコンテンツは一般に膨大な数となることが予想されますから,すべての権利者との間で権利処理を実施することは困難でしょう。

どの方法も完全には適法性を担保できない

 ここで紹介した著作権侵害を回避するための方法は,どれもIT企業にとって使い勝手のよい方法ではありません。完全に適法性を担保できると断定するまでには至らなかったり,実現が困難などの問題があるためです。しかし他方で,動画共有サイトなど著作権の間接侵害が問題となり得るビジネスモデルに対しては高いユーザー・ニーズがあります。ぜひ参入したいと考えている企業も多いのではないでしょうか。

 こうした状況の中で,動画予約/動画共有サービスに対して,どのような経営判断をするのかは,各企業のマインドにも大きく影響されるように思われます。制度や技術面の整備を待ち,適法性を確保できることになった状態で,満を持して市場に参入するという判断もあるでしょう。あるいは,個別の権利処理で違法性を回避する方法も考えられます。適法と判断されるギリギリのサービスを提供し,ハイリスク・ハイリターンのビジネスに踏み切る企業も出現するかもしれません。

 適法性を確保できる確実かつ現実的な方法が存在しない中で,どのようなスタイルでビジネスに踏み切るのかは,非常に難しい問題です。今回述べたような状況のもとでは,各企業がシステムを提供する段階から訴訟リスク,違法と判断されるリスクを十分に吟味する必要があるでしょう。

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 4回にわたって取り上げてきた間接侵害の問題は現在,専門家の間でも議論の対象とされているところです。今後も新たな動向が見られた段階で随時紹介していきたいと思いますが,今回はとりあえず,一度ここで打ち切ることにします。次回からは,古典的ではありますが,いまだに相談の絶えないシステム開発時の諸問題を取り上げることにします。

(注1)第1回で紹介した図1のサービス概要では録画パソコンが該当する
(注2)1対1の通信であると認められた裁判例には東京地方裁判所平成18年8月4日決定の「まねきTV事件」があります