「15年間、RFID(無線ICタグ)一本でやってきたが、だんだん面白いビジネスになってきた」。ICタグ専業の日本インフォメーションシステム(JIS)の外門功代表取締役は、ICタグ事業の将来性に強い手ごたえを感じ始めている。ユーザー数は約60社に達し、2007年度(2008年3月期)に約2億円だった売り上げは、2008年度に約6億円、2009年度に約18億円を見込めるところまできたという。

 外門氏は94年5月、33年間勤めた日本ビクターを58歳で退社し、同社を立ち上げた。日本ビクター時代に手掛けた、ICタグの原形といえる商品を事業化するためだ。だが、「満足できるものが作れず、7~8年は苦労した。90%は失敗だった」(外門氏)。友人からは「普通は3年でものにならなかったら、やめるはず」とまで言われたそうだが、外門氏は「この年齢でやめたら後がない」と事業化を諦めなかった。この間、ICタグ専門の展示会に出展したり、ICタグ活用に関するコンソーシアムを設置したりと、ICタグ市場の動向も探ってきた。

 そんな中、待ちに待ったチャンスが来た。2003年にリサイクル法成立に伴うICタグ活用の実証実験に参画するチャンスをつかんだのである。このことで、JISの存在が業界内で知られるようになったという。それまでの失敗続きの中で積み重ねた経験やノウハウから、オリジナルの2.45GHz帯やUHF帯などICタグや関連製品を開発したことが評価されたからでもある。

 この頃から、大手企業からの商談が舞い込むようになった。2003年に佐川急便の配送センターでの自動仕分けシステム、2005年にはトヨタ自動車チェコ工場における部品管理システム、全日本空輸(ANA)の制服管理システムなどだ。品揃えの強化も功を奏した。ANAの制服管理システムに採用された、何度制服を洗濯しても性能が落ちないという「ランドリ・タグ」、読み取り処理を難しくする金属にも貼って使える「メタルマウントタグ」、液体の中に入れても読み取れるタグなどだ。

 これらのICタグの開発実績が、教育機関や医療機関との共同開発にもつながった。慈恵医大とのカルテ管理システム、慶応大学医学部との検体(血液)管理システム、立命館大学との振動・圧力等センサー付きICタグなどで、ICタグの用途をさらに広げることになった。

海外市場にも目を向ける

 JISは今、中国や韓国など海外市場にも目を向けている。フィリピンや中国などで進められている、自動車のフロントガラスやナンバープレートにICタグを埋め込んで管理するというプロジェクトへの参画はその1つ。韓国では、道路の地下に埋め込んだ水道管などの情報管理に採用されたという。

 こうした高付加価値型のICタグに絞って市場開拓を進める理由は、「大手では5円タグなど、低価格化を推し進める動きもあるが、この領域は価格競争になる」(外門氏)からだ。加えて、「付加価値の高いICタグの利用分野は無限にある」(同)との確信がある。そのためにも商品開発を強化できる強固な事業基盤が必要だと考え、株式公開の準備を始めたところだという。

 調達した資金は、ソフト会社を買収し開発体制を強化するために使う考えだ。トヨタ自動車のチェコ工場向け部品管理システムの商談でソフト開発を依頼されたにも関わらず、「2億円以上の開発規模」(外門氏)では社員十数人のJISの手には負えなかったという。ソフト開発体制の整備こそが、同社の次の成長に向けたステップというわけだ。