SIの会計処理に工事進行基準を適用するようになったら、ITベンダーに是非ともチャレンジしてほしいことがある。それは、ユーザー企業に“会計処理通り”に請求書を発行すること。プロジェクトの進捗状況に合わせて売上を計上するのだから、理屈の上では少なくとも四半期ごとに料金を請求すべきだろう。でも、現状では絶対に無理・・・さて本当にそうだろうか。

 もちろん、ITベンダーが四半期ごとにSIの売上を計上するようになったからといって、ユーザー企業がそれに対応して料金を支払う義務はない。それどころか、債務認識する必要もない。つまり、「請求書なんか受け取れるか」で済んでしまう。その結果、ITベンダーは売上を計上しているのに、ユーザー企業はキャッシュアウトもなければ債務の計上もない、という摩訶不思議な状況が生じる。

 ITベンダーの内部統制上、こうした状況はいかがなものかと思うが、そもそも工事進行基準は会計操作の余地がてんこ盛りの危ない会計処理方法だ。ITベンダーの事業実態を決算書に正確に反映するために、そうしたリスクを背負い込んだ。その分、他業種以上に堅牢な内部統制制度が要るし、会計士や監査法人のチェックも厳しくなると覚悟しなければならない。おっと、今回はそんな気の重い話をテーマにしているのではなかった・・・。

 さて、売上計上の通りに請求書を発行できるかだが、いち早く工事進行基準に移行した某ベンダーに話を聞いても、やはり難しいとのこと。もちろん、これまでだって工期の長いプロジェクトでは、フェーズを切ってユーザー企業に料金の一部を支払ってもらうことは、普通に行われていた。でも、それはあくまでも、何らかの成果物を納めた見返りである。ITベンダーの会計処理上の都合で機械的に、という話ではない。

 では全く無理かというと、実はそうでもないのだ。例えば外資系ベンダー。外資系の多くは、本社が以前から工事進行基準を採用している。そして日本企業相手のプロジェクトで、四半期という決算期単位どころか、毎月料金を請求しているケースもある。だから日本のITベンダーだって、理論的には無理な話ではないはずだ。

 そもそもSIプロジェクトでは、ITベンダーはそのユーザー企業だけのために自社のリソースを注ぎ込んで、日夜なんらかの付加価値を提供し続けている。だから、プロジェクトの進捗に合わせて、付け加えられた価値に見合う対価を支払うというのは、理論的に飛躍のある話ではない。請負契約では、完成させることに全責任を負っている。だから本来なら、進捗に合わせて支払ってもらったって、バチは当たらないはずだ。

 それに、ユーザー企業と直で請け負うプライムのITベンダーには、協力会社つまり下請けに対する債務の問題もある。協力会社も2009年4月以降、請け負ったサブシステムの開発業務の会計処理に工事進行基準を適用するから、その進捗に合わせて売上を計上する。で、その際プライム・ベンダーは工事進行基準を採用しているわけだから、協力会社の計上した売上相当分を債務として認識するはずだ。

 となると、下請け企業がプライム・ベンダーに対して料金を請求しても、なんら問題ないはずだ。プライム・ベンダーが実際にどのような形で支払うのかは別にして、元請け契約と下請け契約の条件を合わせるback-to-backの原則からすると、ユーザー企業に対しても同一の条件で料金を請求すべきということになる。

 こんなふうに書いてくると、ユーザー企業の人から「なんて勝手なこと、言ってやがる。まともなものを作れるかも分からないのに、検収もせずにカネを払えるか」という声が聞こえてきそうだ。まさにその通り。請け負ったシステムを約束したQCDで作り上げることができることが、すべての前提。だからこそITベンダーには、工事進行基準での会計処理通りに料金を請求することにチャレンジしてほしいのである。