SEマネジャは自分の考えを部下に公にした方がよい。特に,今年度の自分の課(グループ)の目標は何かどんな方針でやるか,どんな点に力を入れるのか,そしてSEに日ごろ特に心がけてほしい点などを全SEに示すことが重要である。

 例えば,これはあるSEマネジャの例である。方針では,(1)ビジネス目標の達成を死守する,(2)お客様のご満足を得る,(3)生産性の向上を図る,(4)ビジネスやSEの変革に挑戦する,(5)プロジェクトはノートラブルでやる,(6)先進アプリケーションを発掘する,など自分の課(グループ)が進むべく方向を示した。

 心がける指針では,(1)お客様の立場で考えて行動する,(2)営業には迎合しない。(3)正論なら顧客とぶつかってもよい,(4)顧客の部課長とも話す,(5)IT技術はマニュアルに書いてある程度は知っておく,(6)仲間が困っていたら助ける,(7)自分でできると思ったら上司への報告は不要,(8)パートナーと良い関係を持つ,(9)出勤時間を厳守し,所在を明確にする,(10)約束は守る,(11)明るく楽しくやろう,など日ごろSEに心がけてほしい事項を示した。

 特に指針では対顧客,対ビジネス,対営業とSEのあり方について,自分の考えを明確に示すことが重要である。SEという職業は往々にして顧客や営業やビジネスとの関係で悩み迷うものだからだ。SEマネジャの方々には,ぜひこの方針と指針を全SEに明確に示すことを勧めたい。その是非が,ビジネスやSEの成長に大きく影響するからである。今回はこれについて述べる。

SEマネジャの方針や指針は部下の行動基準と判断基準になる

 SEマネジャが自分の方針と指針を公にすると,部下のSEは「上司の方針はこうなんだ。我々SEにこうあってほしいと考えているんだ」ということが分かる。すると,先ほどの例の方針だと,SEは「売り上げに貢献してやろう」「顧客に迷惑をかけないようにやろう」「プロジェクトはノートラブルでやろう」「変革に挑戦してやろう」などと考えて仕事をする。また,指針だとSEは「顧客の立場で物事を考えよう」とか「対営業では技術者として行動してやろう」「時間は守ろう」「仲間が困っていたら助けよう」「顧客の部・課長とは月1回は話そう」「ボスに報告するのは自分でできないことだけでよいんだ」などと思って行動することを心がける。

 その上,SEは上司が考えている営業や顧客やビジネスなどに対してSEの取るべき姿勢がはっきりするので仕事がやりやすくなる。すなわち「自分はこんなとき,どうすればよいか」とあまり悩んだり迷ったりせずに済む。それは上司の方針や指針が,SEが物事を判断するときの一つの判断基準になるからだ。

 なお,これらの方針や指針を部下に示す際は,単にメールなどで流すのではなく,部下全員を集めて資料を使って部下が納得する様に説明することが重要である。すると部下はよく分からない点は質問もでき,より理解と納得しやすい。もちろん徹底もできる。だが,一人ひとりならともかくベテランも含め部下全員の前で「自分はこう考える。理由はこうこうだ」と言うには,それだけの見識と確固たる信念がSEマネジャには必要だ。下手なことや次元の低いことをいうと総スカンくらいかねない。

 また,SEマネジャは自分が示した方針や指針は率先垂範することが絶対である。口で言うだけでは誰もついて来ない。例えば,営業に反論もしないSEマネジャを見て「SEは技術屋らしくやれ。営業には迎合するな」と言ってもみても意味がない。出勤時間を守れというSEマネジャが時間にルーズでは,これまたしかりである。すなわち,指針や方針は上司と部下のお互いの約束事項でもある。リーダーシップのあるSEマネジャーは,程度の差はあっても必ずこの方針や指針を公にし,自らそれを行っているものだ。だが,SEマネジャの中にはそれをやっていない人が少なくない。メールを流すだけの人もいる。すると目には見えないがその組織でいろんな問題が起こる。そんなSEマネジャは自分で気がついていないと思うが,その主たるものは次の2点だ。