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バラマキ投資より人材育成へ,IPAの変貌に期待

2008/06/11

 「IPAは大きく変貌している」--。2008年4月,民間企業出身者として初の独立行政法人情報処理推進機構(IPA)理事長に就任したNEC元社長の西垣浩司氏は5月、個別のソフト開発支援から人材育成に軸足を移したIPAの路線変更を評価し、今後一層加速させる考えを示した。

 個別のソフト開発プロジェクトに“バラマキ投資”することの意味が薄れてきたのは,“素晴らしいソフト”の開発を支援して来たはずなのに,その分野で世界に通用するような製品がいまだ生まれない,という事実があるからだ。

 しかしそれ以上に,「人材育成」がソフト産業の喫緊の課題になっていることがある。西垣氏はNEC時代、中国やインドにしばしば出向いており、日本が技術者の数と質において圧倒されているという現実をつぶさに見てきた。「日本のソフト産業はオフショアの攻勢を受けている。戦うには,まずボリュームの確保、そして“とんがった”部分を増やすこと」と,西垣氏は人材育成を最優先課題に挙げる。

 ボリューム確保のためには,日本全体のITリテラシを上げることを狙った取り組みをするという。一方、とんがった部分のためには,これまで世の中になかったソフト,つまり「未踏ソフト」を創造できる人材の発掘と支援に力を入れる。従前から手掛けている「スーパークリエータ」と呼ぶプログラムがその一つである。

 しかし、西垣氏の出身企業NECをはじめとする大手ITベンダーは,オフショア開発を加速させている。システム開発で収益を得るため、より安価な労働力を求めることは自然な流れでもあろう。だが、こうした動きは国内のソフト会社の経営環境をますます厳しくし、淘汰される企業が出てくる。技術低下も問題視され始めた。

 ソフト業界の人材育成策に取り組んできたのはIPAだけではない。各省庁や団体が様々な人材育成策を打ち出している。だがその成果はどれもはっきりしない。西垣氏に期待したいのは、そうした各種の育成策を取りまとめ,評価することである。各省庁や団体が取り組む施策の内容と成果を吟味し、そこから最適な仕組みを選び出し,考え出していく。もちろんIPA自身の施策も例外ではない。やりっ放しはだめだ。目標を明確にし、成果を出すことだ。

日本はどこで優位性を発揮できるか

 目指すべき技術者像を描くことも必要だろう。政府も企業も「高度なITスキルを持つ人材が不足している」と嘆くが、求める人材像がはっきりと見えてこない。もちろんそれは一つではないはずだ。高品質、高信頼性に重点を置くのか、早く安く作ること優先なのか、あるいは「スーパークリエータ」タイプなのか。

 それは,日本のソフト産業がどんなビジネスモデルで生き残ろうとしているかによる。世界の中で,日本がどのような優位性を発揮するかである。インドや中国、そして欧米の人材育成を調べることも欠かせないだろう。閉じた世界で物事を考えてはいけない。

 IPA理事長は歴代、旧通産省の出身が就いていた。西垣氏はIT業界に精通し、この産業が抱える課題を理解している。大胆な施策を打ち出せる力を持っているだろう。産業界はそれが実行できるよう環境の整備をぜひ考え、新しいソフト産業を作り上げてほしいと思う。

著者プロフィール

田中 克己(たなか かつみ)
 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。  30年にわたりIT産業の動向をウォッチし、現在は日経コンピュータで「再生の針路」を連載中。主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路〜破壊的イノベーションの時代へ〜」(ともに日経BP社)がある。

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