「日本のIT業界はいつまでもSI(システム・インテグレーション)から抜け出せない。多くの会社が外資系ERP(統合基幹業務システム)ソフトを扱ってSIビジネスを展開するが、美味しいところは外資系にもっていかれる」。NTTデータイントラマートの中山義人社長は、外資系ベンダーのERPソフトと伍して戦える製品を開発し、日本のパッケージ・ソフト・ベンダーの底力を見せたいという思いをこう語る。

 92年4月にNTTデータに入社した中山氏は、ERPソフト「SCAW」の開発などに携わるうちに、ある疑問を感じ始める。折角パッケージ・ソフトという知的財産を持ったにも関わらず、結局は、「パッケージ・ソフトを活用したSI」という労働集約型ビジネスをしてしまっているのではないか。

 個別のSI案件が優先される実状を目の辺りにした中山氏は、「NTTデータにいても、一生の間に関われる案件はせいぜい10件から20件。自分の人生がそれだけで終わってしまう」と考えるようになる。独立した組織として、パッケージ・ソフトの開発をやりたいという気持ちを強くしていった。

 折しも、NTTデータは社内ベンチャー制度を開始する。中山氏はいの一番の手に上げた。周囲からは、「うまくいくのか」という半信半疑の声もあったというが、「小さくても独立したほうがいい」と思い切り、Webシステム構築のフレームワーク開発に取り組み始めた。98年に事業化すると、周囲の予想を裏切って1年めから黒字化。2000年には「NTTデータイントラマート」を設立した。2007年には東証マザーズに上場している。

 2007年度の売上高は、前年度比21.5%増の24億9200万円、経常利益は同76.8%増の2億7500万円だった。成長の源泉は、Webシステム構築プラットフォームの「intra-mart Web Platform」であり、2008年3月末で累計1800社超に導入されている。手組み中心だったWebシステム開発に、ソフト部品化という手法をいち早く持ち込み、短納期を実現させたことが評価された。また、NECネクサソリューションズや日立ソフトウェアエンジニアリングなど、有力販売パートナ92社を獲得できたことも大きかったという。

パッケージ開発のDNAをパートナ企業にも

 販売パートナとの協業を確固としたものにするため、同社はユニークな開発体制を敷いている。販売パートナの若手技術者と同社の開発部隊が一緒になってパッケージの機能強化にあたるのだ。NTTデータイントラマートの社員50人とほぼ同数の技術者が、販売パートナから参画し、ノウハウを共有する。

 「オープンソース・コミュニティに近い開発体制にすることで、販売パートナのノウハウを盛り込めるし、販売パートナの技術者との一体感も生まれる。開発に加わることで販売パートナの技術者のモティベーションが増すし、自らアイデアを生む力も養われるので、スキルアップにもなる」(中山氏)。パッケージ・ソフトについて理解を深めれば、自分の会社に戻ってから仕事がしやすくなる、という狙いもあるだろう。

 NTTデータイントラマートはintra-mart Web Platformのソースコードを公開している。さらに、企業が商品や社員などを管理するための「共通マスター機能」も標準で装備した。ネットワーク上でアプリケーションを連携させて活用する上で、連携先の数を増やすことが必須であり、販売パートナにとっても、その方が売りやすいからだ。

 同じ狙いから、SOA(サービス指向アーキテクチャ)やBPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)、SaaSプラットフォームなどの機能強化も図っている。すでにNECがSaaSプラットフォームへの採用を決めたほか、日本のパッケージ・ソフト・ベンダー27社が参加するMIJS(メイド・イン・ジャパン・ソフトウェア)コンソーシアムも、製品間連携を取るための仕組みとして採用を検討しているという。

 「各社のアプリケーションをフレームワーク上に乗せる動きを加速できれば、外資系には追随できないような品揃えができる」(中山氏)。単品で戦ってきた日本のパッケージ・ベンダーが連合軍を組むことで、外資系ベンダーに挑めるチャンスが広がるというわけだ。とりわけ、販売管理や生産管理などは国ごとの独自性が強く、手組みのシステムが多く使われている。中山氏はここに勝機があると見ている。

 日本の大手IT企業は社内で数多くの「パッケージ・ソフト」開発を進めてきた。だが、パッケージ・ソフトとは名ばかりで、SIサービスのコンポーネントになってはいないか。いっそ外に切り出し、技術者の活躍の場を広げることも考えてみたらどうだろう。