いったい、何の騒ぎなんだろうね。三菱東京UFJ銀行の“システム障害”の件だが、バカみたいな大騒ぎとなった。でも、セブン銀行との間で“たかだか”2万件の取引に影響が出ただけにすぎないし、ゆうちょ銀行など他の6行との間の取引で問題が発生したにすぎない。これは成功とは言えないかもしれないが、普通、想定の範囲という。なのに何故、こんなヒステリックな話になるのか。

 同業他社とのシステム接続だ。完璧を期すのは、とてつもなく難しい。この程度で済んだのだから、よしとすべきである。今回の件で、三菱東京UFJ銀行に罪があるとしたら、利用者に対して事前に“自衛”を求めなかったことだ。「新システムへの移行に伴って、障害が発生する可能性があります。利用者の皆さんにおかれましては・・・」と告知しておけば、“完璧”にOKの話だ。

 三菱東京UFJ銀行は日頃から「完璧を期す」と言っていたようだが、何故この面で完璧を期さなかったのだろうか。金融庁もいったい何をしていたのだろう。皮肉な物言いで恐縮だが、何度も書いている通り、ITだけ、システムだけで完璧を期そうするのは誤り。この一件で、またしても「社会的責任を果たせないIT」というイメージが広まってしまった。もう、やれやれである。

 そう言えば、三菱東京UFJ銀行は今年2月、システム統合に関する説明会を開催し、記者を前に「プロジェクトが順調かどうか、皆様にご判断いただきたい」と啖呵を切ったそうである。まあ、期末の株価がセンシティブな時期だったから、「システム統合がうまくいっていないのでは」といった妙な風評を避けたかったのだろうが、そんな“異例の説明会”はやるべきではなかったと思う。結果的に「完璧」のハードルを上げてしまうことになった。

 そもそもから言えば、システム統合に完璧を期すとの理由で、東京三菱銀行とUFJ銀行の合併を3カ月延期し、さらにシステムの完全統合の時期を1年延期したこと自体が、ヘンな話だった。金融庁の“ご指導”らしいが、当事者が大丈夫と経営判断したことを覆してまで、延期する意味は全くなかった。これも以前書いたことだが、「みずほの教訓」とやらは全く生かされなかった。だいたい、この当たりから「ITだけで完璧を期す」という“暴走”が始まったような気がする。

 まあ、IT業界にとっては想定外の特需だったので、それでよかったとも言える。ただ、バンキング・システムという、ほとんど何の付加価値も生み出さない“巨大な金庫”にバカみたいなコストをかけて、いったいどうするのか。そんなカネがあるのなら、預金金利を上げるなり、手数料を下げるなりして、預金者に還元した方がよっぽど社会的責任を果たしたと言える。

 それに、こんな余計な手間のために、IT業界の優秀な技術者を強烈にバキュームし続けた。そのしわ寄せは、金融業界のシステム開発をはじめ各方面に及んでいた。きつめに言えば、社会的に付加価値のない金庫システムの余計な作業のために、社会的に意味のあるシステムの開発機会を奪ったわけだ。

 まあ、こうした済んでしまったことを、繰り言のように言うのはやめにしよう。ただ、三菱東京UFJ銀行のシステム統合作業はまだまだ続く。ぜひ「ITだけで完璧を期す」といったヒステリックな話もやめにしてほしい。そうでないと「ITはやはり信用できない」「システム開発の仕事はやはり3Kだ」といった、半分だけ正しい風評が広がってしまう。