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ここに挙げたのは,よく名前が知られていて明確に組織があるもの(の一部)です。この他にもコミュニティ主導のものはたくさんあります。また,ここにある「組織」も実体はコミュニティなものもあります。
*1 携帯電話やAV機器でLinuxを使っているものは少なくありません。MacOS Xのかなりの部分がオープンソース由来のコードです。もちろんFirefoxやOpenOffice.orgもオープンソースですね。
*2 例えばこんな調査があります。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20060217/229632/
こうやって挙げられるものは様々あると思いますが,大抵は前回までに書いているような,品質や機能に一定以上の評価が与えられている,「定番」ソフトウエアであるのが普通です。よほど技術に自信があってキワモノ好きの会社でない限り,「定番」でないソフトウエアを選択することはまずありません。
企業にとって「定番」であることには意味があります。具体的にいくつか挙げてみると,
などがあると思います。冷静に企業の都合を考えてみれば,どれも一々納得の行くことだと思います。つまり,企業がソフトウエアに期待する要件と「定番」であることは,だいたい一致しているわけです。
かつて,オープンソースがまだ企業に普及していなかった頃,オープンソースには信用がありませんでした。もっと正確に言えば,オープンソースに信用がなかったため,オープンソースが企業では使われなかったのです。企業でのソフトウエアの導入は,一部の例外を除けば実用性を期待するわけですから,実用となった実績に乏しいものはいくら評判が良くても使えません。その制約を突破することができたものが,少なくともハッカー同志では信用のあった「定番」ソフトウエアだったわけです。
「定番」となったソフトウエアは,様々な生存競争を勝ち抜いて来たという実績の結果だというのは,前回までにお話しましたが,それらには共通する特徴があります。それは何かと言えば,色々な意味での「安定感」です。例えば,
というようなことです。安定感のあるソフトウエアには安心感があります。それを早く獲得したソフトウエアが,広く使われるようになるわけですが,この「安心感」があるということは,企業が採用する時にはかなり優先度の高いファクターです。
そしてこの中で一番重要な「安定感」は,最後に挙げた「供給が安定している」ということです。プロジェクトが続いていれば,多少品質が低いことがあっても改善されることが期待できますし,長く続いたプロジェクトであれば仕様も安定しているでしょう。また,今使っているソフトウエアから他のソフトウエアに移行することは,かなりのコストとリスクのあることですから,多少何かが起きたくらいでは移行したくはないものです。
供給を安定させるためには,「開発主体」が安定していることが求められます。どんなに優れたソフトウエアであっても,個人的モチベーションや好奇心だけで作られたものが定番化しにくいのはそのためです。もちろんプロジェクトの最初は個人的なモチベーションだけでも構いませんが,なるべく早い時期にそういった「個人的モチベーション」から離れる必要があります。前節で挙げたソフトウエアはどれも有名どころの定番ですが,明確に組織があるものです。これ以外でも定番として使われるものは大抵組織や企業,またしっかりしたコミュニティのあるものです。つまり,既にしっかりエコシステムができているということです。
生越 昌己(おごし まさみ)
WASP株式会社代表取締役。1983年に島根県松江市の高専を卒業後,1年弱ほど鉄構関係の設計ソフトウエアを書く仕事をして後,地元のテレビ局に14年勤務。その後9年ほどオープンソースの会社の役員を勤める。
linux.or.jpを立ち上げ,日本Linux協会初代会長を務めた。日本医師会のオープンソース・プロジェクトORCAにかかわり,オープンソースのトランザクション管理システムMONTSUQIを公開している。2007年4月にWASP株式会社を設立。
著書に「Linuxを256倍使うための本」「コンパイラを作る方法」などがある。日経Linuxにも「Linux一問一答」や「カーネル・コンパイル入門」を執筆している。生越氏の個人ブログはこちら。