先日,日本初の本格的ブログネットワーク運営会社「アジャイルメディア・ネットワーク(AMN)」のブロガーミーティングに参加させていただきました。

 同社は,「ブログやソーシャルメディアの運営者,読者,企業の『会話』を促進することにより,企業のメッセージを効果的に伝達・浸透させるカンバセーショナルマーケティング」のリーディングカンパニーを目指すとしています。具体的には,ネット上で発言力のあるアルファブロガーやブログで情報発信する情報感度の高いブロガーが一堂に会して,クライアント企業の商品やサービスを体験,さらに意見交換を通じて理解を深め,それぞれのブログで発信してネットコミを形成していくという仕組みを提供しています。

 今回のテーマは企業のマーケティングではなく,「ブログと税金」。「ブロガーミーティング~たばこ1箱1,000円を考える~」という社会的なテーマでした。日本の財政状況を踏まえた上で,「たばこ税収を増やす意義」「実現への課題」「目的税としての利用用途」「納税者が用途選択,用途の透明性」など喫煙者,非喫煙者双方から問題点や活用アイデアが活発に交わされたのです。

 こうした固いテーマにも関わらず,影響力のあるブロガーが好奇心と問題意識で集まりました。その熱い議論を目の当たりにして,ネットワーカーが実際に顔を会わせるミーティングの可能性をあらためて実感しました。

 今回は,アジャイルメディア・ネットワーク(AMN)の優れたブロガーミーティング運営方法の一端をご紹介しましょう。

きっかけはネットでも議論沸騰の産経新聞「正論」コラム

 今回の議論の発端は,ブロガーとしても知られる日本財団会長笹川陽平さんが産経新聞2008年3月4日付の【正論】コラムに寄稿した「9兆5千億円の新たな税収」でした。

 その主旨は,「世界的な喫煙規制の趨勢(すうせい)に合わせ,たばこをロンドン並みの一箱1000円に値上げすれば,厳しい財政赤字の中で貴重な財源になる。だからこそ超党派の議員立法で実現できるようにお願いしたい」というものです。

 この後,ネットでどれだけ賛否両論が渦巻いたかは,Googleで検索してみれば,よくわかります。「たばこ 1,000円」と検索すれば約728万件,「タバコ 1,000円」では約126万件(2008年5月15日現在)もヒットします。

 そして,笹川さんは,その反響に答える形で1カ月後の4月3日の【正論】コラム「たばこ千円は今や現実的選択」を寄稿しました。さらに,たばこ増税に関する講演内容をブログYouTubeでも公開しています。

どうしたら真面目な議論が広がるか~一つの答えがAMN

 「タバコ増税」は,ともすれば,喫煙者と非喫煙者との間で感情的で過激な議論に発展しそうなテーマです。現にネットでの検索結果をたどれば,一部だけでも,その兆候を見て取れるでしょう。それはそれで,「ネットらしい」調和の取れた姿なのかもしれません。

 しかし,今回,アジャイルメディア・ネットワークのブロガーミーティングに参加して,ネットだけでは味わえない深い理解や共感が得られたと実感しました。たばこ増税については,特に深い関心も意見も持ち合わせていなかった私でさえ,知らず知らず議論に引き込まれていったのです。

 まずは,何より,アジャイルメディア・ネットワークに素晴らしいブロガーが集まっていることが,その成功条件でしょう。どんなブロガーがネットワークされているかはWebサイトのトップページに,今回の議論に誰が参加したかはブログ記事に紹介されています。

 そして,一家言を持ったブロガーたちが介するミーティングの運営方法にも,成功の秘密があると感じました。

様々な立場のブロガーが集うことで深まる議論

 今回のブロガーミーティングには20名ほどが参加しました。限られた時間で,それぞれ思う存分発言するには,これが上限かもしれません。

 何といっても,参加したブロガーのバラエティと比率は絶妙でした。図らずも,喫煙者と非喫煙者,増税賛成者と反対者が,ほどよく参加していました。しかも,年代・性別・職業などもさまざまで,現況に詳しいジャーナリストや税理士の先生もいらっしゃれば,予備知識のない方もいらっしゃったのです。

 こうして参加する人の背景が多様性に富むことは,ミーティングの成功のためには最も重要でしょう。ブロガーズミーティングは,あらかじめ結論が決まっているような「報告書を作るのが目的の委員会」でも,多数決で「結論を決めなくてはならない議会」でもないのです。

 ミーティングの場で,より多角的な視点に触れることにより,それぞれが自らの見識を深めた上で,自分の書きたいようにブログを書けば良いのです。つまり一つの答えが正しいという合議制ではなく,むしろ,それぞれ新たに私見が持てれば良いわけです。

 現状では,アジャイルメディア・ネットワークに参加しているのは,限られた個性的で情報感度が高いブロガーなので,自然とこのような最適比率になるのでしょう。今後ネットワークが大きくなった場合は,ミーティングに参加する人数とキャラクターを,上手にコントロールする必要があるかもしれません。

自己紹介でコミュニケーションスターター

 ブロガーズミーティングは,それぞれの短い自己紹介から始まりました。

 ブログにはニックネームで顔写真も明かさずに書いている参加者も多いのです。しかし,ここではお互いに顔を向け合って,また実名を名乗る人はそれを名乗っての自己紹介です。それだけで,ネット上で見られるような過激な討論にはなりにくいところがポイントです。

 また,さすが,日ごろよりブログを簡潔に本音で書くことに慣れているせいか,またブロガーミーティングに参加しなれているせいか,巧みな自己紹介が続きます。短い自己紹介ブログ紹介に続いて,自分はタバコを吸っているか否か,タバコ増税に賛成か否か,その理由は何かなどを,わかりやすくお話されるのです。

 この自己紹介が,コミュニケーションを潤滑にするスターターとして大変役立つことがわかりました。もしも,今回のように議論や意見に慣れた人ばかりでなければ,「○○について一言添えてください」と課題を出した方が良いかもしれません。