2008年5月2日発売「日経エンタテインメント!」6月号の取材で,面白い企画に協力させていただきました。題して「大物アーティストのTシャツパワーランキング」。日本のミュージックシーンを代表する大御所から新進のバンドまで,アーティストのコンサートTシャツを20枚以上も編集部が集めて,私たちが評価するという企画です。

 詳しくは誌面で楽しんでいただくとして,どれも私が想像した水準を超えたユニークなTシャツばかりで驚きました。たかがTシャツなれど,ファンにとっては,まさにかけがえの無い宝物。アーティストとファンの絆を映し出し,その歴史を記憶するメディアになっていると実感しました。それぞれに美しく楽しく「採点や順位づけなど不可能」と半ば投げ出しかけたのをなだめられて,無い知恵を絞って半ば無理やりランキングしたのです。

 その後,Tシャツを拝見したアーティストやミュージシャンのWebサイトや公式ブログ,さらにはファンのブログを眺めて歩いて,ますます感動を深めました。今や,CD,DVDやコンサート,そしてグッズの単なる販売促進のためにネットが使われるのではなく,まさにアーティストとファンを結び交流するコミュニティがネット上に形成されているのです。

 そこで,アーティスト旧来の有償メディアであるCD,DVD,コンサート,グッズなどと,新時代のアーティストやファンのブログコミュニティを,どのように有機的に結びつければ「三方よし=ファンよし×アーティストよし×ビジネスよし」となるか,Tシャツを例に「7つの提案」を考えました。

Tシャツ企画~完成までをアーティスト自身が語る

 今回のランキングでも,私が一番知りたかったのは,アーティスト本人やスタッフがどれだけTシャツに想いを込めているかということでした。

 取材では時間がなかったので,アーティストがTシャツについて語ったブログをひも解くことができませんでした。もし,じっくり読んでいたら,アーティストや託されたデザイナーやメーカーの熱い思いが語られて,細部にもこだわりとストーリーが感じられるTシャツが優位に立っていたでしょう。

 ましてやファンであれば,アーティストが「魂を入れた」Tシャツを手に入れないわけにはいかないはずです。今年のコンサートの話題からTシャツの話に及び,そのデザインや制作過程が,アルバム作りと同じ頻度や密度で語られたら嬉しさ百倍です。コンサートに出かける楽しみも倍加するでしょう。

 ジャンルはあまりに違いますが,私が「伝説の日産ケンメリTシャツ復刻プロジェクト」に参加させていただき,Tシャツ専用ブログで体感したのは,「まさにお客様がそれを望んでいること」でした。

 アーティスト一人では大変でも,デザイナー,メーカー,プリンター,提携ショップなどが一体となって情報発信すれば,ファンの期待を集める「濃いTシャツ情報」が発信できるはずです。

事前予約限定+コンサート会場交換の特別モデル

 アーティストのブログを毎日読み続けてくれたファン=ロイヤルカスタマーと,当日,流行だからと会場に来たにわかファンでは,やはり「おもてなし」を変えたいところです。そこで,アーティストブログ愛読者が事前予約することで買える「限定コンサートTシャツ」を用意したいものです。

 とはいえ,デザインを多数用意すれば,手間,コスト,在庫リスクも膨らんで大変でしょう。ですから,コンサート会場でも販売される主力Tシャツを基にして,「オーガニックコットンや高級生地などの厳選素材を使う」「Tシャツのボディやプリントの色を変える」「衿や袖の形状を変える」「アクセントの織ネームや刺繍などを加える」といったプラスαの対応をするのが得策です。あとは,アーティストの写真やカード,新譜ダウンロード権などを付加するのも王道でしょう。

 ポイントは,企画段階からブログで告知をした上で,コンサート1カ月前を目処に締め切る事前予約限定にすることです。そして,商品の引渡しはコンサート会場限定にするのがお勧めです。そうすれば,期間限定,数量限定,買える人限定の「特別な商品」になる上に,在庫や未回収リスクがなくなります。しかも,そのTシャツは会場でも目立つ上に,ファンの間で口コミで語られて神話化されていくでしょう。

 もちろん,特別なファン向けの特別にこだわった限定レアTシャツですから,価格設定は高めになるでしょう。それでも,私だったら「そんなTシャツこそ」欲しいのです。

古いTシャツを着てくるほど偉い席,そして復刻モデル

 例えば,指定席ではないクラブや野外会場でコンサートをする場合には,着てくるTシャツで席を分けるというのも面白いでしょう。

 事前予約限定のプレミアムTシャツを着てくれた人を,前の席に案内するのも一法です。しかし,昔のツアーTシャツを大切に着ている人に良い席を与えるというのも楽しいでしょう。「あの伝説的なコンサートの会場に足を運んでいた」というロイヤルカスタマーに,さらに良い思いをしていただくのです。

 よく「インディーズの頃から応援していたのに,メジャーになったら醒めた」という話があります。そこで,まさにインディーズの頃のTシャツを着てくれた人を,前列で優遇できたら最高です。

 ライブビデオやDVDで,前列に「ノラない招待客」の代わりに,昔のTシャツを着てくれている熱いファンがエールを贈ってくれたら「絵としても美しい」し「アーティストも盛り上がる」でしょう。ライブ中のMCで,アーティストが「○○の時から来てくれているんだね。ありがとう」と声をかけてくれたら,私だったら失神するかもしれません。

 さらに,そんな昔のTシャツの話をブログに書いて盛り上がったら,復刻モデルを作っても楽しいでしょう。もちろんディティールは,若干,オリジナルと変えて,旧来のファンの心を害さないようにすることが大切です。