「最近、90日モデルが気になっている」。日本ユニシスでCTO(最高技術責任者)を務める保科剛氏は、システム構築のあり方を見直す時期に来ていることを感じ始めている。開発期間の長期化がIT投資効果を見えづらくし、さらに手一杯で新しい商談獲得ができないといった機会損失につがる可能性があるからだ。

 07年1月、「SIerに求められる2010年の技術」をテーマにNTTデータ、野村総合研究所、日本ユニシスの3社の技術担当責任者にインタビューした。今回はその続編で、保科氏はその時に「社会を支えるプラットフォームが重要になり、そこに必要な仮想化や可視化、情報管理(データベース)の3つがキーワードになる」と話した。このことに変わりはないが、90日でデリバリすることが強く求められはじめつつあるという。

 例えば金融機関向け勘定系システムは2年、3年の歳月をかけて開発する当たり前。中堅・中小企業向け情報システムでも半年から1年を費やすこともある。だが、ユーザー企業の経営者は投資効果を一日も早く知りたいと思ってくる。「四半期決算になり、次の次の期に効果をみたい」(保科氏)となれば、3年プロジェクトではそのニーズに応えられない。

 市販のサービスを活用するSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)はその答えの1つなのかもしれないが、少し異なる気もする。「経営者は、IT導入の効果が直ぐに分かり、そこから問題があれば改善を図れるようなことを望んでいる」(保科氏)。つまり、進化、発展するシステムということだ。

 IT技術が2年、3年で大きく変化していくことを考えれば、「2カ月から3カ月で稼働させることに大きな価値があるはずだ」(保科氏)。こうして稼働させたシステムは十分に満足できるものではないかもしれないが、不足した機能は後で加えていけばいいという考え方にする。稼働したシステムなら、ユーザーは機能などを体感し、「ここが不足している」「ここがダメだ」などと改善要求しやすいだろう。それを順次、取り込めばいい。もちろん両者の納得づくでだ。ユーザー企業がRFP(要件定義)をきちんと作成できない現実からも、そのメリットは大きい。

開発の長期化が他ユーザーに影響及ぼす

 今、ITサービス会社にとって、システム構築需要は旺盛で、商談はたくさんある。人さえいれば、開発作業に取りかかれるのが現実だろう。半面、あるユーザーは40億円から50億円を投資し、次期基幹システムの開発に着手しようと思ったら、複数のITサービス会社から「案件を数多く抱えており、技術者が逼迫している」と断られてしまい、稼働を1年近く遅らせることにした。ユーザー企業に影響を及ぼす一方、ITサービス会社の機会損失という見方もできる。平均のデリバリから、どのくらいの機会損失が出ているのか、調べてみたらどうだろう。

 保科氏は「90日モデルは、ITサービス会社の業務改善というより、どうあるべきかになる」と話す。プロセスを根本から見直すということだろう。例えば1年かけていたプロジェクトを9カ月にするとか、可能なところから手をつける。自動車のように開発期間を3年から2年、1年とサイクルをどんどん短くする。機能を減らしたり、共通化を図ったりしたのだろう。自動化もある。

 こうしたシステム構築を担当するカナメの技術者は、これまでのように1つのプロジェクトにかかりっきりではなく、複数のプロジェクトを同時に手掛ける。「あるソリューションをベースにターンキーで動かせ、カスタマイズも容易にする。ただし、部品を組み合わせるものとは違うし、所有から利用という流れのものでもない。基本的には、ユーザーが仕事を早く始められるシステムで、しかも進化させていけるもの」(保科氏)。SOA(サービス指向アーキテクチャ)は1つの候補なのだろうが、保科氏は「回答をまだ見つけていないが、やれるところから取り組む」という。

 もちろん従来型の2年、3年かけて開発していく大規模プロジェクトも残る。それを求めるユーザー企業もいるが、90日モデルに期待するユーザーが大半を占めるような気がするという。