去る2008年3月23日,日比谷公会堂で,地球環境イニシアティブ(GEIN)のシンポジウム「日本初!地球を救うエネルギーアクションを」が開催されました。

 このシンポジウムでは,サッカー全日本監督の岡田武史さんによるキックオフ宣言に続いて,小田全宏GEIN代表による「7つの政策提言」と,国立環境研究所参与 西岡秀三さんによる「日本低炭素社会へのシナリオ」が発表されました。さらに,環境エネルギー政策研究所所長 飯田哲也さんを座長に,俳優の竹下景子さん,元東京ヤクルトスワローズ監督の古田敦也さん,音楽評論家の湯川れい子さんを交えたダイアローグも行われたのです。

 そこで提言されことは,草の根の国民運動を通じて「再生可能エネルギーの普及を図り,地球環境問題と経済問題を同時に解決する政策」への大転換を図ることでした。そのゴールとして,「生活の質」を下げることなく,2050年までにCO2を50%削減することを掲げました。

 前回のコラムでは,ブログを通じて市民の行動を促して,再生可能エネルギー導入に熱心な企業を応援し,他の企業が思わず真似をせざるを得なくなるような方策を提案しました。今回は,いかにブログを活用して,政治家に政策を転換させるための動機づけをするかという方策を考えます。いわば,市民の力で企業と国を動かすブログを設計するわけです。

7つの提言とドイツを成功させた固定価格買取制

 地球環境イニシアティブ(GEIN)で提言している政策提言は,次の7つです。


  1. 再生可能エネルギーの推進を国家の環境エネルギー政策の柱に明確に位置づける
  2. 2050年のエネルギー消費の50%を再生可能エネルギーでまかなうことを国家目標とする
  3. ガソリン税(揮発油税,地方道路税)などを再生可能エネルギー普及など地球環境税へ転換する
  4. 再生可能エネルギーの環境価値を正当に認め,市民参加型の普及システムを構築する
  5. 公共施設の新築時には,再生可能エネルギー導入を義務化する
  6. 再生可能エネルギー特区の実現をはじめ,エネルギー自立型コミュニティを創る
  7. 世界と共同して再生可能エネルギーを普及させる国際プログラムを創る

 政策提言の詳しい内容は,シンポジウム当日に発売された小田全宏代表の著書「地球を守るために いまあなたができること しなければいけないこと(サンマーク出版)」をご高覧ください。

 シンポジウムで聞いて特に印象に残ったのは,ドイツにおける成功事例でした。

 つい何年か前まで,太陽光発電の先進国であったはずの日本は,今,ドイツに大きく水をあけられつつあります。地球環境イニシアティブの「7つの政策提言」は,まさにドイツの成功事例に裏付けられたものです(実は日本でも10年前に,ほぼドイツと同じ提案が「自然エネルギー促進法」推進ネットワークによって提案され,議会に提出されながら採択されなかったという苦い歴史があるそうです)。

 ドイツの成功要因の中でも,特に興味深いのは「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」でしょう。ドイツでは「再生可能エネルギーを生産した個人や法人が得をする」つまり「儲けるために発電したくなる」仕組みが用意されているのです。

 高額の固定価格で発電した電力を買い取ってくれるので,安心して設備投資ができます。高額買取のための財源は,全国民に納得してもらい,一律5%高い電気料を払ってもらうことで賄っているそうです。つまり国家としては,うまく国民の同意を得ることで,財政出動を抑えながら,再生可能エネルギーを普及させているわけです。この政策=動機付けで,再生可能エネルギーの発電が増えてくれば,5%の過払い分を少しずつ小さくしていくそうです。

 日本では,残念ながら太陽光発電パネルを屋根に設置して,余剰分を電力会社に販売しても,価格が安いので回収に時間がかかり「元を取る」のが大変です。しかも,電力会社から見れば割高なので,積極的に買い取る気持ちにもなれません。つまり,先進国中最低のエネルギー自給率で,原油生産量減少=ピークオイルを目前にして危機的状況にあるにも関わらず,国策たるエネルギー・環境・産業のビジョンと,それを支え加速する仕組みが無いわけです。

 ドイツに習って,こうした「再生エネルギー普及の政策と仕組み」が必要だというコンセンサスを形成するために,地球環境イニシアティブのブログを役立てなくてはなりません。

CO2削減が技術的にも経済的に可能であることを告知

 今回のシンポジウムで一番勇気づけられたのは,国立環境研究所の西岡秀三さんの一言でした。

「気候安定化のためには,世界の排出量を2050年に半減以下にしなければならない。この大幅削減は可能である。2050年に想定されるサービス需要を満足させながら,CO2を1990年に比べて70%削減する技術的なポテンシャルが存在する」

 つまり,技術的にも経済的にも「やればできる」ということを,その道の権威が明言したのです。1200人を超える聴衆の多くが,おそらくは安心すると同時にやる気が湧いてくると感じたことでしょう。しかも,前時代的な不便を強いられるわけでも,経済成長を犠牲にするわけでもなく「削減できる」と教わることで,大いに興味もかきたてられます。

 一人ひとりが,ムリ・ムダ・ムラを無くして省エネを心がけるだけではなく,例えば電気自動車に代表される新たな省エネ技術や,次世代のソーラーパネルなどの造エネ技術を積極的に導入することで,高い削減目標に近づくことができるのです。

 環境エネルギー政策研究所の飯田哲也さんも,ドイツでは,再生可能エネルギーの固定価格買取制が機能して,再生可能エネルギー関連の企業が急成長を遂げていることを強調しました。

 ドイツは,国策として再生可能エネルギーの産業が,20世紀における自動車産業に変わる牽引車になると期待しているのです。現に,同産業は国内に大きな経済効果を上げつつあるそうです。この新しいエネルギー産業は,まさに“地産地消モデル”なので,国内の雇用や税収に貢献しない多国籍企業のみが得をするわけでもありません。

 さらに,「日本が低炭素社会を実現できること」を証明して,技術やODA(政府開発援助)などの資金援助と組み合わせることで,地球環境問題と経済発展を組み合わせることもできます。

 誰もが「2050年にCO2の50%削減を実現できる」というビジョンとシナリオを共有する。一人ひとりが行動すると同時に,それを国策とするように働きかける。そのためにも,ブログを活用することが大切でしょう。