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未完の国鉄改革 Part2

2008/03/24

 前回の最後で触れたように,2008年3月初旬,所用があって宇都宮へ行く機会があった。可愛い少年と少女に会うためである。

 ワクワクした気分で,東武浅草駅で特急券を買った。渡された特急券には,小さな文字で「禁煙車」と表示があった。窓口へ戻って,特急券を差し出しながら「喫煙席が欲しい」と言った。窓口の係員は「こいつ何を馬鹿なことをいっているのだ」という表情で,「喫煙席はありません」と返した。

「え? 前にあったではないか。何度も利用してきたのに」

 その窓口係員は「昨年春に喫煙可能な席はなくなりました」とは言わなかった。まあこれは,ごく普通の風景だ。ただ,係員にサービス・マーケティングの知識と考えがあると,少し違った会話になっていただろうと思う。

サービス・マーケティングにおける“輸送サービス”とは

 サービス・マーケティングの本旨をきちんと理解されたいと思われたら,浅井慶三郎著「サービスとマーケティング−パートナーシップマーケティングへの展望−」(同文舘出版)を読まれることをお薦めする。私にとっては,論理的指南書と呼びたい著作である。この本のおかげで,サービスによる差別化がなかなか実現しない,流行のCRM(顧客関係管理)が形作れない背景としての「サービス認識欠乏症」という事態が理解できるようになった。

 話を本論に戻そう。

 冒頭の話でいえば,この日の私のとっての“輸送サービス”は,浅草2丁目で都営バスに乗って,東武浅草駅前で下車して,東武伊勢崎線に乗り換えて,途中東武宇都宮線に乗り継いで,東武宇都宮駅まで行くことである。そして,可愛い少年と少女たちに出会う約束の地である宇都宮市八幡山公園のテレビ塔下が目的地である。海苔巻きと太巻きを食べながら子どもたちと遊びたいと思っていたので,東武宇都宮駅隣接の東武百貨店地下食料品売り場で,それらを買い求めた。

 顧客の参加がないとサービスは成立しない。このケースでは,誰も関与しないまま顧客自身で“輸送サービス”を成立させてしまったと言えるだろう。

成田へのルートで散見された輸送サービスの未完

 JR東日本を含めて鉄道会社全般に,“輸送サービス”についての認識は怪しいと思っている。

 私が神奈川県三浦に在住していた頃,かなり頻繁に米国へ取材旅行に出かけていた。この出国までの輸送サービスが難行苦行だった。実際にいくつかのルートを体験してようやく開拓した,苦行を強いられないルートは次のようなものだ。

自宅 → 京浜急行YRP野比駅 タクシー

 当時エスカレーターが設置されて,荷物を持って階段をホームめがけて上がらなくても済んだのは,YRP野比駅だけだった。

※当時のアパートの最寄り駅は三浦海岸駅か津久井浜駅だった。

京浜急行YRP野比駅 → 京浜急行品川駅 京浜急行2100形快特

 大きなスーツケースを置くスペースがある車両は,京急では2100形だけだった。品川駅でのJR乗り換えを選んだのは,荷物を引きずって歩く階段の数が5〜6段と少なかったからだ。

JR品川駅 → 成田 成田エクスプレス

 荷物を引きずってエスカレータで上下移動して,ようやくチェックイン・カウンターにたどり着いた。

※帰路は違っている。特に成田への到着が遅れた場合は,通勤時間帯に品川にたどり着いて混雑に巻き込まれるのを避けるため,いろいろと工夫した。

 当時は,こういう体験をかなり頻繁に強要されてきた。どうして“ポーター”をなくしたのかという苦情を真面目に言ってやろうとしたこともあった。そして鉄道会社全般に対して,旅行者には決して親切ではないという実感を抱くようになった。

 彼らは,誤った方向へ突き進んでしまったように感じる。JR東日本が全社レベル(含むグループ企業)で公益性の高い輸送サービス会社に変身するためには,新たな改革を引き起こさなければならないと思うばかりだ。

Suicaと自動改札で柔軟な運賃設定を

 JR東日本が自動改札機の普及を背景に,プリペイド型の電子マネー「Suica」を開発した事情は私にもよくわかる。それ以前の自動券売機(顧客へのコスト移転と呼んでもいいのかもしれない)の積極導入も,当時の背景を踏まえると,かなりの程度納得できる。折々の社内外の環境変化に,徐々に対応したとも言えそうだ。

 ところが,その環境変化に対応していないのが乗車券(運賃)だ。

 通勤にしろ通学にしろ,定期乗車券というのは頻繁に利用するという前提で,あらかじめ運賃を割り引いている。その一方で,結果的に高頻度利用顧客となってしまった場合,事後的な割引は受けられない。これは,運輸約款そのものが時代環境に適合できていないからではないか。

 もうひとつ,定期乗車券については,次のような問題がある。定期乗車券は,居住地と従業地や通学地の各駅で乗り降りすることを前提に販売されている。しかし,実際には居住地と従業地や通学地の間の各駅での乗り降りは自由である。普通乗車券では,近郊区間は「途中下車前途無効」なのにである。

 高校生とおぼしき年齢の若者によく見られるが,通学定期券を利用して途中で乗り降りし友達と繁華街を散策したり,アルバイトしたりと,私から見ると“やりたい放題”である。その“やりたい放題”を下支えしているのが,現行の通学定期券だ。

 近郊区間の普通乗車券に途中下車を認めよ,というのではない。運賃を真剣に検討してみてはどうか,と提言したいだけだ。例えば,平均的な就業形態が週5日勤務ということであれば,通勤定期は月曜日から金曜日だけ有効ということも考えられる。勤務形態がそれぞれの企業ごと,職場ごとに違うということなら,企業別・職場別に定期券用データを作成すればいい。そこで,Suicaの出番だ。

 自動改札のSuicaによって,定期券と定期券運賃はその内容を変更できる。私はこういう企業向けサービスの充実で,運賃収入が増えるのではないかと推察している。

 サービスという概念は分かっているようで分かっていない。サービスという概念は,その企業の社会的な位置で異なってくる。企業に適合したサービス戦略というのは,実際にはなかなか見かけないものだ。

 JR東日本の場合,残された国鉄改革の部分がそれに当たるのだろう。本業で,顧客を快適に輸送するサービスの実現を目指してもらいたい。そう期待している。

■変更履歴
本文前半で「禁煙可能」としていましたが,「喫煙可能」です。また,YRPをYPR,東武伊勢崎線を東武伊勢佐木線と誤記していました。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/3/26 10:51]

著者プロフィール

 CRM(顧客関係管理)分野で数々の経験を積んできたコンサルタントの多田正行氏がwatchdog(番犬/監視人)として,CRMの現状や将来を語ります。多田氏は1947年生まれ。現在「eCRM塾」主宰。著書に「売れるしくみづくり」(ダイヤモンド社),「コールセンター・マネジメント入門」(悠々社),「コトラーのマーケティング戦略」(PHP研究所)などがある。

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