ITサービス会社とSaaSの微妙な関係について考えてみる。この前、「SaaSは普及するに決まっているじゃないの」と書いたが、現実は想像以上に進展が速いようだ。日本でも金融機関が率先してSaaSを利用するようになったし、マイクロソフトも市場の立ち上げに注力する、もうそんな時代だ。ところがITサービス会社の多くは、こうした時代の奔流から外れてボーとしている感がある。
SaaSの普及は確実として、どれくらいのスピードで市場が立ち上がるのか。最近、「5年後ソフトウエア/サービス市場の8%がSaaS市場に置き換わる」との日本市場の予測が出ていたが、あながち過大な数字とも思えない。むしろ、さらに上振れするかもしれない。実際、市場を過大に見積もることが大好きな米国の調査会社でさえ、SaaSの世界市場予測を過小に見積もり、上方修正を強いられているほどだ。
そんな「サービスとしてのソフトウエア」を使おうというトレンドを前に、日本で一番頭を抱えているのは、言うまでもなく「パッケージとしてのソフトウエア」を生業とするITベンダーだ。米国ではパッケージソフトの衰退産業化が見えているので、マイクロソフトはビジネスモデルを変えることに必死だし、オラクルなんかは他のベンダーを買収しまくることで残存者利益を狙う構えのようだ。
一方、日本のベンダーの場合、SaaSの動向は気になってしょうがないが、簡単には身動きが取れない。特に業務パッケージ・ベンダーはソフトウエア販売に加え、サポート・サービスでビジネスを組み立てている。そして、どんなにシミュレーションしても、その2つから得る収益と同等の売上を、SaaS事業から得る見通しが立たない。それに間接販売なら、SaaSで販売パートナーに儲けてもらう術が全く見つからない。
だけど、ユーザー企業はSaaSへとなびくし、既存のASPも含めSaaS事業者が数多く登場し、成功モデルもいくつか出てきたので無視しているわけにはいかない。で、最近ようやく、大手ベンダーもおっかなびっくりであるが、SaaS型のビジネスのマーケティングに乗り出すようになった。いずれにしろSaaSは、彼らのビジネスモデルを直撃するため、これから先「SaaSをどうする」で頭を悩まし続けなければならない。
では、SIerなどのITサービス会社はどうか。正直、何の危機感もないよね。今は技術者不足で、「手組みとしてのソフトウエア」の案件はいくらでもある。SaaSが自身のビジネスモデルを脅かすことは、当面なさそうだ。かつてASPブームの時に手を出してひどい目に遭ったこともあるのに、何で今さらそんなリスクある新規事業に取り組まなければいけないの、多くのITサービス会社の感覚はそんなところだろう。
ただSaaS市場の立ち上がりは、ITサービス会社にとっては人月商売という古臭いビジネスモデルを刷新するチャンスなんだけどね。もちろん、それを直感しSaaS事業に取り組み始めたITサービス会社も少数ながらいる。彼らは、米国のメジャーどころのSaaSベンダーの販売パートナーとなり、カスタマイズ商売をやろうとしている。まあ、それはそれでいいのだけれど、もうひとひねりが欲しい。
SaaSのカスタマイズ商売は、欧米のメジャーERPでのカスタマイズ商売のアナロジーだろうけど、ERPの時のような収益はとても期待できない。「商材がパッケージソフトからSaaSに変わっても、ユーザー企業のカスタマイズ・ニーズは不変で、SIerの出番がある」と言う人がいるが、カスタマイズの工数はそんなに大きなものにならないし、ユーザー企業の利用部門が自分でカスタマイズできてしまったりする。
ではSaaSの時代に、ITサービス会社は何をすればよいのか。それは簡単。ASPブームの時に惨敗した試みを、もう一度やればよい。ITサービス会社なら、どこかの特定業種に強みがあるはずだから、その業種でこれまでSIとして横展開していたものをSaaS化すればよい。ユーザー企業の意識は以前と大きく変わった。ASPブームの時はダメだったサービスも、今もう一度マーケティングすれば受け入れられる余地があるはずだ。
こう書くと「気安く言うな」と怒られそうだが、あえて気安く言う。「うまくいったとしても、儲からないよ」とも言われそうだが、本当にそうか。実はSaaSはおろか、ASPブームのはるか前から、日本には銀行や証券会社向けで大きな成功事例がある。それを共同利用型システムと呼ぶ。そして、サービスを提供しているのはITサービス業界の大手で、彼らの大きな収益源だ。これからは他の業種向けでも、いくらだってチャンスはあるはずだ。
「サービスとしてのソフトウエア」が普及することで、一番打撃を受けるのは「パッケージとしてのソフトウエア」ではなく、本当は「手組みとしてのソフトウエア」だろう。SaaSの時代、手組みの案件はどんどんなくなっていく。残された手組み案件も、多くは中国やインドに流出していく。事業が好調な今、そしてIT需要の大きな転換期の今、ITサービス会社には是非ともビジネスモデルの転換を真剣に考えてほしい。