しばらくの間このコラムのお休みをいただいていましたが,再び,経営にまつわるデザインのことをデザイナーの視点から,つらつらと書かせていただきます。

 さて,この1年間で日本の景気はどうなったでしょう。

 日本株の2007年1年間の下落率は米国格付け会社スタンダード・アンド・プアーズが調査したところによると,世界52カ国,地域の騰落率の中でワースト2だそうです。少子高齢化,すさまじい国債残高,その他様々な理由で日本株の先行きは不透明感が強まっているようです

 東京都産業労働局が2008年2月に発表した東京都中小企業の景況は「連続の悪化で,2年11カ月ぶりに▲40まで低下。見通しは大幅に悪化,先行きへの懸念がみられる」とのことです。景気が回復したとか言われていますが,みんな浮かない顔で歩いていますよね。

 それとは対象的に,最近表参道や銀座では,中国人の家族連れやアベック,団体さんが大きなブランドの紙袋を両手に持って闊歩しているのをよく見かけます。今年の8月に第29回オリンピックが北京で開催されるのを間近に控え,中国の景気は右肩上がりらしいですね。

 日本の貿易相手は中国がアメリカを抜いて最大の貿易相手国になったそうです。つまり自社の製品を買ってくれるお得意さんがA社からC社に変わったということでしょうか。羽振りがよいのは様々な理由が挙げられますが,お金を稼げるようになった今,欧米はもとより,アジア諸国が産業や経済を発展させるための手段としてデザインの導入,活用を打ち出してきています。今まではそんなことには無関心のださくて安っぽい製品が普通でしたが,ようやくデザインの大切さに意識が向き出したようです。

「デザインは新資源である」

 中国では「デザインは新資源である」という言い方で,デザイン教育に力を入れ出しました。中国の工業デザインといえば,今はまだ日本のクルマそっくりさんのデザインが少なくありませんが,これは高度経済成長期の日本も同じことを言われていましたよね。そんな中国の多くの大学が,デザイン課程の設置を進めており,今も増え続けているとのことで,デザイナーの養成機関はなんと1000を越すそうです。入学希望者も多く,競争率も80倍から100倍とのこと。日本の4年生私立大学は,約40%が定員割れをしているというのに! 人口が多い国とはいえ,すさまじい勢いを感じませんか。

 韓国では1年で約4.5万人のデザイナーの卵が生まれ(日本は約2万人),また,国際的なビジネス展開を視野に入れた英語によるデザイン教育が行われています。サムスン電子は経営者によるデザイン至上主義政策と,デザイナーを470人も大量雇用(日本最大の松下電器産業は450人)してブランドイメージがソニーに追いつきそうな勢いで伸びています。

 台湾にいたっては「もうモノ作りでは食べていけない」ということで,今後は三つの分野に特化することで世界市場で生き残って行く戦略が立てられたそうです。第1にデザイン,第2にマネージメント,第3には金融であるとのこと。ものつくりでは,日本はアジア諸国に追い越されるのも時間の問題だというのに。

 イギリスでは「クリエイティブ産業」を基幹産業の一つとして戦略的に強化しているのが話題になりました。11のセクターで構成されており,デザイン,広告,ソフト・ゲーム,音楽,映画などの現代的なものと,芸術,アンティーク,伝統工芸など,伝統的なものとを区別せずに,同じコンテンツとして考えており,その育成に政府が国のプロジェクトとして,お金と人材をつぎ込んでいます。英国大使館のHPによりますと,2007年ではクリエイティブ産業は,GDPの8%以上を占めるに至り,雇用人数は180万人を上回ります。また,同産業部門は,英国経済全体の二倍以上の成長率だそうです。

 イタリアは,デザインの重要性の認識を持った中小企業の経営者が多く,さすがデザインの国ですね。ドイツはデザインの教育機関「バウハウス」発祥の地であり,デザインの素地ができあがっている文化があります。政府は中小企業に対してデザインの導入が盛んで,EUの基金を用い地域中小企業向けのデザイン拠点を整備しています。

 このように,産業国の中では,経済力や国際競争力をつけるためにデザインの推進に力を入れ続けています。特に,アジア諸国の勢いは注目すべきです。