「ローマに入りてはローマに従え(When in Rome,do as the Romans do)」という有名な言葉があります。これまでに海外との仕事をうまく進めるため,現地の人々の考え方や行動パターンを学び,現地になじむことを心がけてきました。

 現地の習慣や態度を学ぶことは比較的容易で大きな効果があります。今回は各地でのそういった体験をご紹介したいと思います。

人間関係が重視されるベトナム

 ベトナムでは人間同士の関係が重要視されます。会社や組織の方針は大事ですが,担当する責任者や担当者の気持ちが仕事の対応や成果に大きく響きます。それはそれで問題ではあるのですが,筆者は,プロジェクトを成功させるためインフォーマルなコミュニケーションを増やし,下地となる人間関係をつくるよう努力してきました。

 日本からベトナムへのオフショア開発をコーディネートさせていただいたときのお話です。

 現地では会話や文書の英語に訛りやくせがあります。例えば,時制が少し変だったり,三人称単数のsが抜けたり,単数/複数が混在していたり。そういったパターンを理解することでコミュニケーションがとりやすくなります。そのうちにそれが普通に感じられるようになり,欧米のネイティブの英語を聞いてはっと我に返るといったこともよくありました。

 最初は現地の人々の顔が同じように見えます。しかし,仕事中よく観察しているうちに,個人毎の違いがわかってきます。そうなると,個人の行動パターンを理解して想定できるようになり,仕事も少し楽にこなせるようになりました。

 ベトナムに深くかかわっているかどうかは,なぜか現地の人にすぐにわかってしまうようです。ホーチミンの統一会堂を訪れたときのことでした。ガイドの女性が私の顔や姿なりを見て,「数多くベトナムに来ているでしょう。長く住んであちこちにいっていらっしゃるでしょう。」と話しかけてきました。筆者にベトナムの何かが付着していたのでしょう。日本企業の方からも,ベトナム人に間違えられたこともあります。

 こういった努力が効を奏してか,そのオフショア開発は当初計画が途中で変化したにもかかわらず,関係者の努力とチームワークにより最終的によい結果を出すことができました。

 以前韓国の仕事をしていたとき,韓国人に間違えられたこともあります。大阪空港で何かよい土産物はないかといろいろな店を覗いていた時のことです。店員が話しかけてきました。少し話すと,「日本語がとてもお上手ですね」と褒められました。

 また大阪空港の荷物検査場では係員に「ニホンゴハナセマスカ?」と聞かれました。

 金浦空港の喫茶店で中年の韓国人男性が,韓国語で「韓国人ですか?」話しかけられたこともあります。筆者はつたない韓国語で「いえ,違います。私は日本人です。」と答えました。しばらくの会話の後,その男性は「わかりました。在日ですね。日本人がそのように韓国語を話すことはありませんので」と,一人納得してその場を去ってゆきました。

 不思議なのは,韓国の仕事から離れてしばらくすると,韓国で付着していたものが落ちたせいか,間違われなくなったことです。

 また中国関連の仕事をしていたときは,西ドイツのハンブルク,HauptBahnhoff駅近くのホテルで,中国人男性に中国語で話かけられました。「我不是中国人。是日本人」と答えると,その人は「対不起(すみません)」といって立ち去りました。

 余談ですが,ホーチミンの町中で,タクシーをうまく拾えず困ったことがあります。バス,車,バイク,自転車でごったがえし,暗く見えにくい夜,ビルの前で一人で30分以上立ってタクシーを待っていたこともありました。それらしいタクシーは通過するのですが,うまく止まってくれませんでした。その交通状況は日本のものと様相がまったく異なりまさにカオスです。簡単なタクシー拾いもガイジンにとっては時には容易なことではありません。

 しかしあるとき,親切な人が多いと思ったので,思い切って近くにいる人を誰かれかまわずつかまえて頼んでみました。すると,すぐにタクシーをうまくつかまえてくれるではありませんか。これには助かりました。不思議なことに,反対車線を走っているタクシーがUターンしてこちらに来てくれることも多くありました。これにより,現地には現地のやり方がある,ガイジンのやり方だけでは,物事は成功しないな,と感じました。

 グローバルアウトソーシングのメリットを生かすためには,一つの文化にまとまるのではなく,各地域の人材,労働,コストなどの特徴や強みを生かさなければなりません。そのためには,現地になじみ,それぞれの国や地域の文化や人の行動パターンを知ることは大きな武器になるのです。