前回は,ゲスト参加した株式会社CIJ主催の社内ブログ活用研究会で,参加企業の担当者が「社内ブログが盛り上がらない」ことを悩まれていたことをご紹介しました。

 そして,問題の本質はブログやシステム担当者よりも,昨今の若者の気質,閉鎖的な社風や企業組織によるところが大きいと指摘しました。

 今回は,社内ブログ活用研究会でこれまでに出た議論をもとに,社内ブログを経営改革にまで結びつける私案をご紹介します。

社内ブログ活性化のための論点

 私は,社内ブログを経営改革とセットにした上で,うまく運用すれば,大いに効果が上がると考えています。

  • 社員が活性化して元気になりつつモラルが高まる
  • 組織の壁を超えて社員誰しも仲良くなって結束力が高まる
  • 重要生情報が社内に流通,商品・サービス開発や改善が進む
  • お客様の知りたい情報が社外に流通,ネットコミが広がる

 そんな,あるべき社内ブログに昇華させるにはどうしたらよいのでしょうか。社内ブログ研究会では,これまでの議論で次のような仕組みが必要だとまとめられていました。

  • トップの積極的なコミット
  • ブログ投稿の業務フロー化
  • ランキングなどモチベーションを高める仕掛け
  • インセンティブの設定
  • 積極推進役の意識的な記事,コメント投稿
  • Wikiや社内報など別媒体の活用
  • 取材やリクエストによってPush型で情報を引き出す

 いずれも有意義で賛成できるアイディアです。そこで,これを私流に膨らまして,当日の議論も合わせながらまとめてみました。

■方策1:トップの積極的なコミット
   >>まずは経営者が新社風=情報流通方針を宣言

 経営トップが「どんな情報を発信して欲しいか」「どんな情報なら発信しても良いか」を明確にしなければ,潜在的な社員ブロガーも怖くて発信できません。

 もし私が経営トップだったら,こんな宣言をして,情報発信の基本的な心得とするでしょう。


 何かを隠す企業は,「偽」と「告発」文化に陥りやすい。だから,重要な機密情報以外はどんどん公開しよう。自部門にとっては当たり前の基礎知識や心配りであっても,それこそが他部門やお客様が求めている情報かもしれないのである。

 しかし,カタログやマニュアルの情報をコピーペーストしても,お客様の心に響かない。これからは,没個性の金太郎飴社員が集うマニュアル重視の企業には優秀な人材が集まらないし,活性化もしない。だから,個々人のキャラクターを生かして,私たちの会社や商品の魅力を,自分自身の言葉で表現して欲しい。

 また,マス媒体を使った一方通行で最大公約数向けの宣伝,広報の効き目は,これからますます限界的になる。だから,みなさんがそれぞれ興味がわき,親しみやすいネットコミュニティに参加して,自ら,会社の親善大使になったつもりで「草の根のブログ発信」をして欲しい。


 もちろん,社長自身が,社内スピーチや社内報で,こうしたメッセージを繰り返す必要があるでしょう。同時に,誰よりも影響力のあるブロガーとして活躍して,模範を示すことは言うまでもありません。

■方策2:社員研修や部門ミーティングでチーム・ビルディング
   >>仕事以外の家族や個人の夢もシェアして応援しあう風土

 社長がやる気になっただけでは「トップからの片思い」で,一方通行になりがちです。そこで,社内ブログを育む企業文化や社風の創造,否,社内ブログ導入を方便にして「新たな社内外コミュニケーション・スタイル」を創造する必要があります。

 各部門のトップと若手担当スタッフによる「社内活性化=ブログ活用研究プロジェクト・チーム」を作って,月例会を開いて,普及活動に従事することが重要です。そして,社員研修や新年・新年度前後の目標設定・人事考課レビューなど,各種イベントに組み込んで,有効活用することが重要でしょう。

 特に「仕事」のことのみならず,「家族」「個人」も含めた3領域で,「自分はどんな夢や希望を持ち,どんなことを将来,そして今年実現したいか」を部内でシェアするチーム・ビルディング研修を活用したいものです。これは,ある上場企業の経営者に誘われて,私が数年来参加している小勉強会で実践していることで,大きな効果を実感しているものです。

 最初はプライバシーを語り合うのに慣れず,難しいかもしれません。しかし,お互いに少しずつ夢を語り合い,応援するムードを作ることで,社内でも自己表現と情報発信がしやすくなるのです。もちろん,会社に来る,会社にいるストレスも減るでしょう。これを,部門横断的なタスクフォースや,プロジェクト・チームの導入時やメインテナンスで活用するのも効果的でしょう。他部門のメンバーと個人的により親しくなることは,情報共有と相互扶助の文化を作る一助になるからです。

 こうした運動を,ブログ導入担当の情報部門だけに依存するのは酷なので,「社内ブログ活用プロジェクト・チーム」では,経営者と人事研修部門が中心になってプログラムを設定する必要があるでしょう。

■方策3:ブログ投稿の業務フロー化
   >>営業や商品開発マニュアルにブログ投稿を組み込み習慣化

 マニュアル化は一見,個々の個性を重んじるブログ化に逆行するように見えるかもしれません。しかし,これまで情報発信どころか,お礼状の習慣さえない社員にブログ効果を体感してもらうには,基本動作の反復訓練は必要です。

 重要なお客様とのコンタクト前後には,ブログで調べ,許可をいただいて自分のブログでPR支援をして喜んでいただく。商品開発部門も,事前に社内外にオープンできる情報は「プロジェクトX」に習って,うまくメイキングオブ新商品情報を書き進めていく。

 当初は,こうした基本動作を業務マニュアルに組み込んで,習慣化するまで徹底的に繰り返す必要もあるでしょう。そのうちに,日々の情報発信が,半ば当たり前の習慣になり,その先には,その気持ち良さを味わわないと物足りなくなる=気持ち悪くなる感覚を味わうようになります。

 ちょうど,早起きの習慣がない人に,早朝トレーニングの気持ち良さを知ってもらうために,当初は目覚ましをかけて無理にでもラジオ体操やジョギングに連れ出すようなものです。いずれ,それが自分の自然な習慣になり,呼吸するようにブログ受発信ができるようになるでしょう。

■方策4:ランキングなどモチベーションを高める仕掛け
   >>量から質へ,社内ブログ品評会,社長賞,お客様賞

 当初は,単純にアクセス数やコメント数でランキングをつけるのも確かに重要でしょう。しかし,ブロガーは数字をほめられるよりも,記事の中身=人柄そのものを褒められた方が嬉しいのです。

 モチベーションを高めるには,社内(部内)ブログ品評会が有効です。毎月1回,各自が前月に書いたブログの中で「最も気に入っている記事」を持ち寄り,自ら朗読して発表するのです。そして,聞いていた同僚が,評価と応援のコメントを寄せ合うのです。その上で,評価が高かったものを社長賞や部長賞にして讃えたいものです。さらに,お客様のことを記事にして喜ばれた場合,お客様評価の賞を差し上げても良いでしょう。

■方策5:インセンティブの設定
   >>人事制度改革を予告し,月間・年間MVBを社長が絶賛

 ゆくゆくは,人事考課に「ブログでの情報発信や蓄積を加える」と経営陣が公言することで,強力なメッセージを全社に送ることになるでしょう。求めるべき人材像の中に,情報受発信が自在にできる人という資質を加えて,社員募集要項に加えるのも効果的です。

 人事制度を改革するには時間がかかりますが,そこまで最初から踏み込まずとも,先ほどの社内ブログ品評会を繰り返して,毎月,部門別に月間MVB(最優秀ブロガー)を選ぶだけでも効果があります。月間MVB社員を,社内報や社長ブログ・広報ブログで社長自らが褒め讃えることが大切です。そして,社長同席の昼食会に招待すれば,それが何よりのインセンティブになると同時に,強力なメッセージを社内に送ることになるのです。

 もちろん,年間MVBを選んで,社内の一番大きなイベントで表彰するのもお忘れなきように。

■方策6:Wikiや社内報など別媒体の活用
   >>選ばれしMVB情報を厳選して,掲載して,蓄積する

 社内ブログとはいえ玉石混淆,「ブログ情報の7割はゴミかコピペもの」という経験則は変わりません。ですから,全ての社員の全ての情報を蓄積するのは,システム資源と時間の無駄遣いでしょう。

 ここで,有効活用すべき人材と情報は,月間MVBに選ばれた優れたブロガーと,プロジェクトチームの精鋭ブロガーたちです。

 Wikiを使って,社内に眠る知的資源を辞書化する時も,このメンバーが編纂委員になることで,素晴らしい辞典が作り上げられるのです。また,社内報や社内ブログ・メルマガの連載コラムや,さらには外部の取材対応も,部門別のMVBが対応することで,情報の質とリアルさを高めることができます。同時に「ブログを書くことでスポットライトが当たる」とわかれば,インセンティブになるでしょう。

■方策7:取材やリクエストによってPush型で情報を引き出す
   >>情報発信が苦手な部分を精鋭ブロガーが取材して穴を埋める

 当初は,自部門の情報発信が中心だった精鋭ブロガーたちに,今度はもっと活躍してもらいましょう。

 どうしても,製造部門や営業部門など現場からのブログ発信がボトルネックになりがちです。実は,現場こそブログで発信すべき情報の宝庫なのですが,もったいないことにブロガー不在の場合も多いのです。

 そこで,その情報が薄い部門に積極的に取材して情報発信を支援することが重要でしょう。他の部門,それも社内でも有名になりつつあるブロガーから取材・賞賛され,さらに社長はじめ経営陣からも賞賛されればモラルアップにつながるはずです。

 やがて,部内ブロガーを育てようという気運も高まるでしょう。

■方策8:積極推進役の意識的な記事,コメント投稿
   >>精鋭ブロガーからブログジョッキーを育てよう

 社内ブログ活性化の鍵を握るのは,最初に情報発信と共有に目覚めた精鋭ブロガーたちです。その「最終進化系」は“ブログジョッキー”でしょう。

 ブログジョッキーとは,私の造語です。ディスクジョッキーやビデオジョッキーと同様に,良いブログを選んで,おもしろ楽しく紹介・応援して,ヒットさせる,いわばファシリテーターです。

 「自ら書く」から,「みんなに書いてもらって盛り上がる」へ。
 「書きたいことを書く」から,「今必要な情報を集めて編集する」へ。
 「情報を社内だけで共有する」から,「社外にも広めて共感を広げる」へ。
 「褒められて嬉しい」から,「褒めて喜ばれて嬉しい」へ。

 こうした人財が育てば,自ずと社内ブログも盛り上がります。それだけではありません。社内の風通しが良くなって,モチベーションも上がることでしょう。

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 今回の「社内ブログ活用研究会」に参加して,あらためてブログは「システム」だけの問題ではなく,「経営」「企業文化」「人」の問題だと痛感いたしました。

 ご紹介した私案を見て,たかが社内ブログ導入のために何を大げさな,とお思いになったかもしれません。しかし,社内ブログをきっかけにして,新たな経営風土を作ることができるのです。経営者も現場ブロガーも心一つにして,お客様の声に耳を傾けながら商品やサービスを開発しては,それぞれ自分の想いを自分の言葉で発信できるような企業が,私が考える理想形=オーケストラ経営なのです。