かくして上場までたどり着いたサイボウズですが,その後に待っていたのはなんと「ビジネスモデルの崩壊」でした。少し大げさな言い方ですが,実際にサイボウズの第6期(2002年2月~2003年1月)は,前年度比で売上が約15%,利益は約40%も減少しました。

 当時のサイボウズのビジネスモデルは,「シンプルなWebグループウエアを作り,インターネットでダウンロード販売する」という,たいへんわかりやすいものでした。90年代後半のインターネットブームの追い風を受けて,起業直後から業績は予想以上に伸びました。

 しかし,主力商品である「サイボウズ Office」のバージョン4をリリースする2000年末ごろには,業績は伸びている反面,先行きに不安を感じていました。と言いますのは,広告の効果が落ちていたのです。それまではコンピュータ雑誌に広告を出せば出すほどダウンロード数が増えていたのに,もうそのころは増えなくなっていました。そこで,コンピュータとは関係のない媒体に広告を出しました。しかし,広告効果は高くありませんでした。サイボウズのソフトは,企業の「システム管理者」が買うわけですから,当たり前といえば当たり前のことです。

お客様によいソフトを末永く提供し続けるために

 また,ソフトを「売り切り」で提供していたことも災いしました。ソフトはリリースしてからも,細かいバグの修正や機能アップ,セキュリティへの対応,そして人を介したサポートが求められます。ソフトウエア業界では,それらの作業に対して「保守料金」という名目でお客様からお金をいただくのが通例ですが,サイボウズはその仕組みを作っていませんでした。お客様のために頑張って機能を拡張したり,バグを直したり,サポートをしたりしているのに,どんどん苦しくなっていくのです。

 そこで,「保守料金モデル」を作る試みを開始しました。具体的には,新しいWeb型データベース製品「DBメーカー(現: サイボウズ デヂエ)」を作り,それをサブスクリプション(定期購読)形式のライセンスで提供するというものです。販売ルートは,サイボウズが得意な「ダウンロード販売」です。発売開始当初は,お客様からの反発もたくさんありました。「安くて買い切りなのがサイボウズのいいところなのに」「サイボウズはがめつくなった」など,厳しい言葉をいただきました。しかし,本当にお客様に迷惑をかけるのは,開発を続けられなくなること。サポートを続けられなくなること。よいソフトを提供し続けるためには,持続する収益モデルを作らなければならない。そう信じて進めました。この商品は,逆風の中でもそれなりに収益に貢献しましたが,当時のサイボウズの売上減少を補うには至りませんでした。

 限られた日本のグループウエア市場の中で,さらに限られた「インターネットからダウンロードして購入する人」。効率的なビジネスモデルであるがゆえに,限られた市場でしか通用しない。それを痛感しました。

 今,「SaaS(Software as a Service)」というビジネスモデルが大きな注目を浴びています。ビジネスソフトをインターネットのサービスとして提供するというものです。パッケージソフト・ベンダーはSaaS型に転換しなければ生き残れない,というような言い方をされることもあります。しかし,本当に大事なのは,お客様によいソフトを末永く提供し続けること。サーバーがどこにあるかは本質的なテーマではない。「今年もよくやってくれたね」とお客様にほめてもらえるような活動をして,その対価をいただくこと。その原点を忘れてはならないと思っています。