SEマネジャにとって部下のSEが担当している“お客様を知る”ことは極めて重要である。それも部下のSEがかかわっている全顧客である。

 言うまでもないがSEマネジャが顧客を知らないと,部下に「○○顧客の△△課長がそんなことを了承されるとは思えない。こうやったらどうか」とか「その見積もりは先輩の◇◇SEに相談しろよ」とか「あのビルは深夜は出れないから仕事は早く切り上げろよ」などと具体的な助言や琴線に触れるようなコメントをすることは難しい。

 また,トラブルなどの時に適切なアクションもとり難い。もちろん,部下が納得する人事評価をするのは不可能に近い。

 それは第一線のSEの仕事は顧客の体制やシステムの難易度や部課長・担当者の考え方やスキル,ベンダーとの関係の良し悪しなどによって仕事の仕方や留意点,苦労の度合いなどが異なるからである。

SEマネジャは顧客訪問に工夫を

 ではSEマネジャが顧客を知るにはどうすれば良いかだが,それは一にも二にも顧客を訪問して自分の目と耳で顧客を知るしかない。

 顧客の業種や,規模の大小,売上げや利益などは机に座っていても分る。だが部課長や担当者の考え方や性格,スキルや机の配置やマシンルーム,SEルーム,顧客への道順や建物などは足を運んで自分で把握するしか方法はない。これには誰しも異論はあるまい。

 だが,現実のSEマネジャの顧客訪問はどうだろうか。顧客数が1~2件ならともかく6~7件,10件…と多くなるとすべての顧客を訪問して“顧客を知る”努力をしているSEマネジャはそう多くない。事実,何処の会社でも大手の顧客など数件の顧客は頻繁に訪問するが,他の顧客には年始・年末程度しか顔も出さないSEマネジャがいる。

 すると必然的にそんなSEマネジャの部下の中には“放ったらかされ状態"のSEが生まれる。それでは放ったらかされたSEは困る。不満も起こる。文句もいいたくなる。やる気も下がる。もちろん,顧客も困る。

 ではどうすれば良いか。きっとこの“訪問しない/訪問できない症候群"のSEマネジャは悩んでいると思う。だが自分で努力して解決するしかない。筆者も現役時代様々な工夫をした。そこで今回は当時,筆者が考えていた主たる事項について説明したい。読者の方々の参考になれば幸いである。

1.「月別顧客訪問回数目標」を決める

 どの企業でもSEマネジャは忙しい。SEマネジャの多くは「やることが多過ぎる。なかなか顧客訪問できない」言ってバタバタしている。そして往々にして顧客訪問を疎かにする。

 だが,SEマネジャは「時間があるから顧客訪問する」という発想は厳禁だ。そうではなく例えば「俺は今年は毎月15回顧客訪問するぞ」と訪問回数の目標を決める。それを上司や部下に公にして自分にプレッシャーをかける。そして時々自分で訪問の実績をみて「今月まだ8回しか訪問していない。まずい」,「年間目標を達成するには」などとレビューし,目標達成にむけて頑張ることだ。

 筆者はSEマネジャになった当初は毎月20件,後半は15件という目標を持って頑張った。SEマネジャの方は是非やってみてほしい。そして営業部長や事業部長などに「私の顧客訪問は毎月15件だ。今月はまだ9件しか訪問していない」などと話せば,彼らの見る目も変るはずだ。

2.「月別顧客別訪問回数表」を作る

 顧客訪問と言っても特定の顧客ばかり訪問しても意味がない。重要なことは部下のSEがかかわっている全顧客をできるだけ平等に訪問して“顧客を知る”ことである。

 そのために筆者は顧客別訪問回数表を作っていた。簡単に説明すると,升目の表を作り表の上(横軸)に1月,2月,3月,…12月と書き表の横(縦軸)に顧客名を書く。そして顧客を訪問したら該当月に正月の正の字を書いて行く。そんな表だ。表の中には役員,部長など訪問した相手の名前も書くこともあった。そしてそれを時々みて「俺は○○会社は3カ月を訪問していない。まずい。今月は訪問しよう」などと自分を戒めていた。

 もちろんこんな表ですべてが解決するわけではない。だが,人間は弱い,楽をしたい,それを自分でコントロールして少しでもきちっと仕事を行うのにはこんな表も結構役立つものだ。

 筆者は現役時代,多くの事業部長や営業部長とつきあったが,できると評される多くの人は月別顧客別訪問回数表の類のものを持っていた。筆者もそれを真似て作ったがきっと読者の周りの営業部長や役員は何かを作って自分をコントロールしている筈だ。

3.単独で訪問する

 顧客訪問と言っても,営業やSEと一緒にしか訪問しなかったり,顧客のアポをとって訪問するやり方では関係者との日時調整が煩雑でそう簡単には訪問できない。すると往々に定例会議や打ち合わせの訪問となりなかなか訪問できない。また,会議などの多人数の訪問となると顧客の本音も聞きにくい。

 ではどうするかだが。答えは「アポをとらずに独りで訪問する」ことだ。すると自分の都合で訪問できるし,独りだと顧客の方の本音も聞き易くより深く顧客を知ることができる。SEマネジャの方には是非この「独りぶら訪問」を勧めたい。なお,この詳細ついては2006年4月21日のブログ「SEマネジャ独りぶら訪問の心とは」をみていただきたい。

4.新しい顧客をもったら逆に振れ

 人事異動や組織再編などで担当顧客が増える時に注意すべきことがある。SEマネジャも人間だから往々に馴れ親しんだ顧客に気持が惹かれ新しい顧客訪問が疎かになり勝ちだ。事実,SEマネジャの中にはこれまでの顧客は積極的に訪問するが新しい顧客は敬遠する人がいる。

 そんなエコ贔屓は厳禁だ。それでは担当SEや顧客が困る。極論を言えばこれまでの顧客を放っといてでも新しい顧客を集中的に訪問し一日でも早く知ることが肝要である。そのためには惹かれる気持を“逆に振って”新しい顧客に顔を出す,担当SEや営業と意識して話す。酒も飲む,そんなことを意識して行うことだ。

 筆者は現役時代新しい顧客をもった時は必ずそうやっていた。具体的には,新しい顧客を集中して訪問し早く名前を覚えて貰う。会議に出席しシステムを勉強する。顧客の部課長の考え方やスキルを知る。担当者と良関係を作るために休日のテストには何か差し入れる。また顧客のゴルフコンペや飲み会などにも積極的に参加する。それやこれやいろいろなことをやってできるだけ早く新しい顧客の状況を知り良い関係を築く努力をしていた。そしてある程度顧客を知ったら集中訪問を止め元に戻し全顧客を平等に見るように心かけた。

重要なのは公平な顧客訪問

 以上,“お客様を知る"ためのSEマネジャの顧客訪問について色々と述べた。

 要は重要なことは公平な顧客訪問だ。偏った訪問ばかりしていては,放っとらかされたSEや営業から「あのマネジャは○○社や△△社ばかりばかり顔を出す。俺のところはほったらかしだ。冗談じゃない。俺たちの苦労が分かるのか」などと批判されるだけだ。もちろん,公平な部下の人事評価も難しい。また,顧客でトラブルなどが起こっても自分では適切な判断ができない。お客様からお金を貰っている以上顧客をエコ贔屓して良いという論理は何処にもない。

 いずれにしてもそんなSEマネジャをもったSEや顧客は不幸だ。そんなSEマネジャはマネジャ失格だ。是非「自分はちょっと」と思うSEマネジャは,そうならないために訪問回数の目標や月別顧客訪問表を作り,独りぶら訪問などを知恵と工夫を発揮してぜひ実行してほしい。

 「SEマネジャは訪問してお客様を知れ」これが今日の一言である。そして部下のSEを励まし指導・助言し自分を越えたSEに育ててほしい。