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IT導入にともなう“新”中間管理職不要論

2008/03/04

 思えば10年ほど前だったろうか,IT導入にともなう「中間管理職不要論」がそこかしこでまことしやかに語られた。日本人は熱狂的で冷めやすいと言われるが,このテーマもまさにそうだ。今,不要論者はひっそりとしている。

 大騒ぎした結果どうなったか。厚生労働省の平成18年度賃金構造基本統計調査によれば,全労働者に占める中間管理者(部長・課長職)の構成比は,1991年は8.9%,96年は9.1%,2001年は9.6%,そして2006年は11.4%と,確実に増加傾向にある。実数で見ると,中間管理職の人数は減少しているが,全労働者数も減少しており,結果として比率は増えている。この調査結果は,不要論に逆行する。

 しかし,こうした調査結果を見て,「中間管理職不要論は間違いだった」と安堵する中間管理職がいたとしたら,それは,とんでもない間違いである。安堵しているとすれば,その人は遠からず本当に不要になる。実際,筆者の知る企業においても,そういう中間管理職が多すぎる。

パソコン嫌悪症は少数派になったが「使うだけ」の管理職も

 まず,余りにも惨めで,最近では希少価値さえあるだろうが,パソコン嫌悪症の中間管理職である。

 中堅企業Aの支店長Bは定年まであと2年。パソコン嫌悪症で,自分のメールのやり取りを若い部下にやらせている。Bの不勉強も問題だが,何よりも問題なのは,管理職向け機密情報まで若手社員に見られてしまうことだ。Bは各種管理データをプリントアウトしてもらっているが,パソコン嫌いはデータに拒否反応をするせいか,アクションに結び付けられないでいるという。

 その一方で,一見するとパソコンを使いこなしているようで,問題のある中間管理職も存在する。

 大企業Cの営業課長Dは,毎日3分の2はパソコンに向かっている。それ以外の時間は,会議・外出で不在だ。在席時は,内外からのメール(業務に直接関係ないビジネス情報や一般情報も含む)の通読や,部下の営業日報へのコメントなどで,ほとんどの時間を費やしてしまう。まるで,パソコン画面上の情報を処理することが自分の仕事だと心得ているように。

 中堅企業Eの資材部長Fは,「出来る部長」として社内の評価も高い。資材システムもよく使いこなしている。しかし実際は,ただ単に情報機器を巧みに操作しているというだけ,情報共有も単にデータを機械的に共有しようとしているだけだった。部下をトップダウンで「管理する」という旧態依然とした観念の持ち主であるため,部内に創造的発想が生まれない。せっかくITを導入しても,変化に対応できない。

 Bはともかく,DやFのようなタイプの中間管理職は,その辺にウヨウヨいる。

中間管理職には自部門の戦略を練る役割がある

 ところで,そもそもの中間管理職不要論を振り返ってみると,企業に情報システムが構築されることで,情報共有や同報通信の機能によって階層型組織が崩壊し,組織がフラット化して,中間管理職が不要になるという理屈だった。そして,残った中間管理職はパソコン操作が必須で,プレーイングマネージャになるとした。しかし結局,大勢として組織はフラット化しなかった。しかも求められたのは,単なるパソコン操作でなく,新しい企業文化と,中間管理職の新しい役割だった。その辺を,もう少し考えてみよう。

 もともと中間管理職を,単に上と下の結節点として情報をつなぐ役と見なすのは間違いである。彼らには,日常業務をこなす一方で,自部門の戦略を練る創造的役割があるはずである。

 その上,IT化によって企業文化,そして従業員・管理職の役割が変化した。いや,変化させねばIT導入は無意味だし,企業の存続も発展もない。それには,企業のIT化を,データの蓄積,情報の共有,情報が末端からトップへリアルタイムに伝わるといった,現象的・実務的・機械的な面で捉えるのではなく,企業文化を変えるものだという捉え方をしなければならない。

 企業IT化を象徴するキーワードは,オープン(解放)・シームレス(連携)・コミットメント(参画,または自律性)と言える。これらは,情報を自由に受発信できるインターネットが普及した状況下で,より重要となりつつある。

 情報は単なるデータの域を脱し,ナレッジ(知識)・智恵(ノウハウ)へと昇華しなければならない。これは,IT化以前の状態を思い浮かべると理解しやすい。中間管理職は,己の存在を守るために情報を囲い込み,部門ごとの利害に固執し,指示待ちで自律性がなかった。そこでは,情報は単なるデータであった。ITはこうした状況を打ち砕く。逆に言うなら,こうした状況を打破できないようなら,ITは効果を発揮できない。

 ITが効果を発揮すれば,異部門・異業種間,あるいはグローバルな情報交換が,自律的かつ自由に行われる。個が躍動し,「創造的発想」が生まれる。また,自律性や参画はプロジェクト発生などの「組織の流動化」をもたらす。その一方で,企業IT化のマイナス面も考慮しなければならない。上記の長所は,反面で業務や職場の個別化や分散化をもたらしたり,パソコンの私的利用・プライバシー侵害・機密漏えいなどが加わって,従業員にストレスが生じたりする。

創造的リーダーシップを発揮するファシリテート力が必要に

 さて,これらの企業文化の変化にともなって,中間管理職に求められる役割は変化し,ますます重要になる。まず,洪水のごとく押し寄せる情報の選択力を身につけなければならない。そして,必要な情報の収集・分析,それにもとづく判断力,さらに業務改善/新規事業などの企画力と実行力が求められる。さらに,グローバルで変化の激しい環境の中で,量とスピードで迫る情報を駆使して,予期しない変化に対応しなければならない。企業IT化の負の面も克服しなければならない。

 そのためには,単に物事をまとめるコーディネータではなく,創造的発想ができ,組織が流動化する条件下で創造的リーダーシップを発揮するファシリテート力が必要とされる。こうした中間管理職の役割や能力は,IT化で始まったことではなく,もともと必要とされていた。ただ従来は,それがなくても中間管理職はなんとか務まっていたのである。

 こうして考えてくると,先の例に挙げた支店長Bは議論の対象にさえならない。即刻消えてもらわなければならないタイプである。課長Dは,IT化を履き違えている。「出来る」部長Fは,遠からず限界にぶち当たるだろう。多くの中間管理職がそうであるように,Bはもちろん,DやFのような中間管理職は不要であり,いずれ排除されるだろう。

著者プロフィール

 『日立製作所・八木アンテナなどで,経営から事業企画・製造・営業・情報システムなど幅広く経験。現在は,naoIT研究所代表として経営指導・執筆・大学非常勤講師・講演などで活躍中。主な著書「IT導入は企業を危うくする」「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(いずれも洋泉社)』。ITproでの過去の掲載記事は増岡直二郎バックナンバー一覧へ。

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