社員520人(平均年齢32.7歳)を擁する中堅ソフト会社のユー・エス・イー(USE、東京都渋谷区)に、「癒し本部お祭りか」というユニークな部署がある。同本部長も務める創業者の吉弘京子代表取締役副社長によれば、「若い社員が悩んだら、すぐに相談できるようにするコミュニケーション作り」がその役割だという。

 同社は約20年前に「お祭りか」を設置し、福利厚生の一環から誕生会や運動会など様々な行事を始めた。社内報も発行するが、これを発展させて3年前に設けたのが「癒し本部」である。「心の病になって人生を狂わしたら、親御さんにも申し訳ない。だからこそ、親のような気持ちで、若い人にすくすくと夢に向かって前進できるような環境を作りたいと思った」(吉弘氏)。

 背景にコミュニケーション不足の蔓延がある。地方採用が多かったこともあり、若い社員が孤独にならないよう1部屋に2人、3人が入れる社宅を設けた。20年近く前のことで、社員同士のコミュニケーションを活発化させるためでもあったという。だが、バブル崩壊後で採用環境が大きく変わってきた。「採用はしやすくなり、優秀な人も入ってきた。バブル期前には難しかった躾もできるようになった」半面、採用面から1人1部屋にしたなどもあり、社員同士や上司との触れ合いをどう増やしていくかが課題になってきた。ユーザーに常駐する技術者もいる。

 そこから、クリスマスパーティや花見、社員旅行、新年会、忘年会など行事をどんどん増やし、その数は定期的なものだけで年間30から40回にのぼる。非定期を含めたら毎週、なんらかの催しがあるようだ。毎月開催する誕生会では当初、社員に「顧客からこう褒められた」「こんな苦労をした」など1年の成果や自己ピーアールなどをさせた。上司と部下が月1回、成果を踏まえて、「今後どうするのか」といった話し合いの場も設けた。

 最近は落語家など著名人を呼び、「いろんな人の話を聴く機会も設けた。何かに気付いてもらいたいという気持ちもある」(吉弘氏)。こうして「会話の場を意識的に作り、何か困ったら相談にいつでもいけるようにした」(同)。

 癒し本部が、行事に費やす費用はそれほど多くないようだ。会場は東京・渋谷の本社ビルで、基本的には手料理にしていることもある。社員のための行事なので、「おもてなしは役員がする」(吉弘氏)。実は、本社ビル完成の前はホテルなどで開催していたが、費用はかかるし参加者が場所の関係から予定の半数になったことあった。そこで、95年7月に自社ビル建設(97年10月落成)を発表したおり、行事に必要なホールを作ることにした。

プロセス重視の評価へ

 ソフト産業を取り巻く経営環境は厳しさを増している。単価は下がる一方だし、中国やインドへのオフショアも活発化している。USEはこうした行事を積極的に行うことで、戦う集団に作り上げる狙いもあるようだ。日本のソフト会社がオフショアに対抗して生き残り、かつ成長していくには生産性をいかに上げるかが1つのカギになる。コミュニケーションは生産性に大きく貢献する。「確かに細かな設計ができていれば、オフショアは可能だ。だが、設計のここがおかしいと分かったとしても、オフショアはそのまま作るのではないだろうか」(吉弘氏)。USEはここにチャンスがあるとし、こうした問題を解決し、生産性を高めることに活路を求めたわけだ。

 その考えからプロセス重視の成果主義も導入した。約10年前に日本に進出した米ピープルソフト(その後、米オラクルが買収)のERPをいち早く社内導入したのも、その流れからだ。さらに、約100人のERP関連技術者が育ち、ノウハウを生かした事業にも進出している。