NTTデータが出向政策を見直すそうだ。地方子会社へ出向している従業員2000人強を対象に転籍を求めるとのことで、この原稿の執筆時(1月31日)が募集の締め切り。転籍者の給与水準は3割ほど下がり、9社ある地域子会社が“地場企業”としての競争力強化を図る・・・。この手の企てはITサービス業界でたまに聞くが、果たしてうまく行くのだろうか。

 まあ、NTTデータの給与水準から見れば、3割下がっても地方のITサービス会社に比べればまだ高いぞ、なんて野暮なツッコミはよそう。問題は、地方で多くの技術者が活躍できるだけの仕事があるかである。地方による濃淡を無視してマクロ的に言えば、地方にはそこに住む技術者の能力分に見合う仕事はなく、“東京の仕事”に依存せざるを得ない。では、地方で“東京の仕事”をどこまでできるのか。

 これは昔からある難問だ。いわゆる「お持ち帰り問題」である。例えば金融機関向けのシステム開発はオンサイト、つまり客先で行うのが基本。請負であっても、案件を持ち帰って自社内で開発することは、セキュリティなどへの懸念から顧客が許さない。中央官庁もそうだし、大手製造業なんかもその傾向が強い。

 そういうわけなので地方のITサービス会社は、こうした採算性の良い大口案件を下請けであれ、孫請けであれ、地元で請け負うことはほとんど不可能だ。必然的に地方のITサービス会社は、“東京の仕事”を求めて東京に支社・事業所を作るか、地方自治体など地場の限られた大口顧客に依存することになる。

 ITなんだから技術者がどこにいても仕事ができるはずだ、と正論を言うのはたやすい。そして、それは世界の常識である。しかし日本の顧客は、ソフトウエアは目に見えないというITのもう一つの特性に不安を感じてきた。目に見えないから、せめて開発工程は目の前で行わせたい。ITサービス会社も「承りました」と御用を聞いちゃうものだから、絶対にオンサイトでないとダメという“非常識”がまかり通ってきた。

 もちろん、最近では金融機関なんかにも外資が入ったりして、必ずしもオンサイトにこだわらない顧客も増えてきた。ところが、である。こうしたさばけた企業は、よりコスト削減効果を見込めるオフショア開発に走ってしまう。マクロ的には技術者不足とはいえ、景気に翳りが見えている中で、このままの状況が続けば地方のITサービス業は本当に危うい。

 さてNTTデータをはじめ、メーカー系を含めたプライム・ベンダーはどうするのか。大手顧客に案件の「お持ち帰り」を認めさせることを前提に、地方の子会社やパートナー企業との付加価値ある協業体制を築けなければ、日本のITサービス業は地方から衰退してしまうだろう。もちろん地方のITサービス会社にも、独自技術で世界に打って出るくらいの覇気がないと話にならないが。