「テクノロジーの力を再認識することだ」。IT調査会社ガートナージャパンでバイスプレジデントを務める亦賀忠明氏は、日本のITベンダーが危機的な状況を陥ったのはテクノロジー軽視にあると指摘する。「グローバルで何が起こっているのか」を知らないITベンダーが多いことにショックを覚えるとともに、それが営業利益率3%以下という散々たる業績につながっているというのだ。

 現状を打破するには、確固たる戦略が必要になる。ただ残念ながら、「グローバル展開するにあたって、何をやればいいのかが分かっていない」(亦賀氏)のが実情のようだ。確かにハード、ソフト、サービスの1つひとつの開発には力を入れている。例えばサーバー・ビジネスは価格性能比の向上などに努めてきたし、ITインフラの標準化などにも取り組んできた。だが、アップルのiPodはどうか。ハードでも、ソフトでも、サービスでもない。それらを一体化させることで、ユーザーが望む“バリュー”を提供する仕組みを作り上げている。

 なのに、日本のITベンダーは、ハードはハード部隊が、ソフトはソフト部隊が、サービスはサービス部隊が、とバラバラに取り組んでいる。いわば、木を見て森の姿が見えないまま開発しているようなものだ。「サーバーなどハード単体で利益を稼ぐより、システムがどうあるべきかを議論するときなのに、世界の潮流を睨んだ開発をしてきたのだろうか」と亦賀氏は手厳しい。サン・マイクロシステムズらが07年11月に発表した地下に巨大データセンターを構築する構想もそうだが、日本のITベンダーからこうした発想は生まれない。

 もちろん当人たちは将来を見据え、ITインフラの整備・再構築に欠かせないテクノロジーである仮想化や統合化、自律化、グリッドなどを研究・開発してきたと主張するだろう。だが現実は、研究開発費を抑制している。例えば富士通は90年代、研究開発費に売上高の10%強を投入していたが、2000年度以降は5%程度にとどまる。

地球規模の大規模サーバーを考えるIBM

 一方で、「米IBMはメインフレームを地球規模のオープン・サービス・トランザクション・サーバー・システムに仕立てようとしている」とし、亦賀氏は日本のITベンダーが大規模サーバーの考え方で大きく遅れていることも指摘する。具体的には、IBMが07年11月19日に発表したクラウド(雲)・コンピューティング計画だ。

 IBMによれば、クラウド・コンピューティングはITサービス提供のためにそれぞれが持つ大きなシステムを相互にリンクし、そのインフラを共有するための新しいアプローチと説明している。2000年度にルイス・ガースナー会長(当時)が打ち出したITユーティリティ・コンピューティングを具現化したもので、世界に数十の巨大データセンターができると予想し、IBM自らセンターを立ち上げサービス提供会社になるとともに、センター施設に必要な部材も提供するとしていた。IBMはこの間、仮想化や自律化などのテクノロジーに多大な投資をし、それらを土台にソフトやサービスを組み合わせていく考えだ。08年にまずメインフレームでクラウド・コンピューティング環境を実現させるという。

 こうした流れを、亦賀氏は「システム構築からテクノロジーによってサービスを提供する時代に移っていく」とみる。日本のITベンダーは自社テクノロジーでどこまで対応できるのだろうか。富士通のITインフラTRIOLEの場合では、構成要素の自社製品はかつて8割あったが、今は2割にまで減っている。

 日本市場は富士通やNEC、日立製作所の大手ITベンダーが大きなシェアを握る。彼らのテクノロジー離れは、ユーザー企業のIT化にも大きく影響を及ぼすことになる。かつての日本がそうだったように、IBMや米HP(ヒューレット・パッカード)がどんな方向に進もうとしているか、世界で何が起きているかをどん欲に追いかけることから始めなければ、新しい日本のITの姿は見えてこないだろう。

※)本コラムは日経コンピュータ2007年12月24日号「田中克己の眼」に加筆したものです。