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SaaS市場に本格参入する会計ソフトPCAの戦略

 有力パッケージ・ソフトベンダーがSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)市場に本格参入することはこれまで少なかった。ライセンス収入+保守というビジネスモデルの崩壊を避けることと、既存販売チャネルへの影響を懸念するからだ。こうした中で、会計など業務ソフトを展開するピー・シー・エー(PCA)が今春にSaaS市場に参入することを表明した。その狙いはどこにあるのか。

 PCAの水谷学社長は「SaaSは究極の姿だが、基幹系は情報系よりも少し遅れて波が来る。かつてLAN対応するときも3年から5年遅れであった。基幹系は安定性を含めて保守的な面がある」と話し、グループウエアや営業支援ツール、CRM(顧客情報管理)など情報系が普及期に差し掛かったことで、基幹系へと広がる時期に来たと読んだようだ。

 同社がターゲットする中小企業も営業所、工場、倉庫など複数の拠点がある。経営者の中には自宅などからデータを見たいこともある。こうしたニーズに、インターネット経由でアプリケーションを活用するSaaSは有力候補の1つになる。大手企業ならVPN(仮想閉鎖網)も可能だが、中小企業はそこまで手が出ないこともある。

 そこで、PCAは2000年頃にSaaSの前身でもあるASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)によるサービス提供を検討した。だが、コストを算定したところ、1社当たり15万円程度かかることが分かり、断念。パフォーマンスの問題に加えて、回線費が高い、データセンター費用が高いなどである。

 ところが昨今、ハードウエア価格は劇的に下がる一方、回線コストもどんどん安価になってきている。加えて、会計ソフト・ユーザーを調査したところ、ユーザーインタフェースを重要視することが分かり、SaaSに踏み切ることにした。そこで、1年半前にプロジェクトを立ち上げサービス提供方法を探り始めた。最も時間を費やしたのはデータセンターの運用形態で、「仮想環境を使って、いかに管理するかだ」(水谷氏)。会計はリアルタイムで処理することもあり、負荷が高まったときにどう分散するかなどである。海外製ブレードサーバーを活用してテストしたところ、パフォーマンスは期待した以上の結果が出たこともあり、今春のサービス・インに向けて準備に着手した。

160社を対象に今春からサービス開始

 SaaS事業が成り立つことを証明するために、まずPCA自身が08年3月にも自社ユーザー160社(960ユーザー)を対象にサービスをスタートさせる。数億円を投資し、ブレードサーバー5台構成で、ユーザーの利用状況などから最適な方法を見つけ出す。販売店などにいわばお手本を示すもので、「こんなビジネスができる」「こんな料金体系がいい」といったことを明らかにしていく。どの程度の規模になれば、採算を確保できるかも検証する。

 SaaSの形態は3つ用意する。1つ目は、既存の販売店はこの仕組みを活用する方法。2つ目は、販売店にSaaSに必要なサーバー用モジュール・セットを提供し、自らSaaS事業を展開できるようにする。SaaSインフラを手掛けたいデータデンター事業者と協業することも可能。3つ目は、ソフトだけを提供する方法。PCAが用意するブレードサーバー以外や異なるミドルウエアを活用したい販売店やデータセンター業者向けである。

 もちろん、パッケージ・ソフトの販売形態は維持する。「ソフトウエア+サービス」という考え方で、約1400社ある販売店から「俺達が売るものがなくなる」という販売店の声に応えることでもあるし、ユーザーの中にはサービスとパッケージ利用を併用したニーズもあるからだ。PCAのサポート対象ユーザーは17万7000社あり、同社がすべてカバーできるはずはない。販売やサポートの面で販売店との協業は欠かせないからでもある。「ユーザーは電話一本で問題を解決してほしい」(水谷氏)。

 それでも、「長期的に見れば、パッケージ販売は下がり、月額料金のサービスが増えていくことになる」(同)とし、販売店にSaaSユーザー獲得を推し進めるよう提案する。「累積ユーザーをより多く持つことで、販売店にとっても経済効果は大きくなる。管理コストを見ても100ユーザーより1万ユーザーのほうがいいのは明らか」(同)。ユーザーが増えれば、販売店の手数料も増えるという計算だ。

シェア拡大も大きな狙い

 PCAがSaaS向けに会計、販売、給与、仕入れ、公益法人会計の5製品を当初から用意する。「小出しにはしない」(水谷氏)戦略だ。SaaS市場が急速に拡大するとの判断からだが、実はもう1つ大きな理由がある。会計ソフト市場で先行するオービックビジネスコンサルタント(OBC)を追い抜くことだ。

 PCAは株式公開まで同市場をリードしてきたとの自負があるが、その後、OBCに業績で大きく差をつけられてしまった。ちなみに06年度の業績は、PCAが売上高63億円超、経常利益16億円弱に対して、OBCは169億円超、96億円弱と売り上げで約3倍、利益で約6倍の開きがある。

 PCAはこの差を縮める可能性をSaaSに見出している。水谷氏は「イノベーションがある限り、そこにチャンスが潜んでいる。SaaSは10年に1回のチャンスでもある」と意気込み、キャッチアップの第一弾にSaaSを位置付ける。2010年度頃に売上高100億円を目指す計画である。

 [2008/01/23]

著者プロフィール

田中 克己(たなか かつみ)
 日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ(現日経ソリューションビジネス)編集長などを経て、2004年から主任編集委員。専修大学兼任講師(情報産業)。
 30年にわたりIT産業の動向をウォッチし続け、現在、日経ソリューションビジネスで「深層波」、日経コンピュータで「再生の針路」を連載中。
 これらの連載を基に、2007年12月に「IT産業崩壊の危機」(日経BP社)、2008年12月にはその続編「IT産業再生の針路〜破壊的イノベーションの時代へ〜」(日経BP社)を上梓した。

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