新年明けましておめでとうございます。一昨年から「今日の一言」を連載している馬場です。

 平成18年の2月から書き始め,今年2回目の新年を迎えた。その間「日本のSEは現在いろいろな問題を抱えているが,それは三十数年前とほとんど変わっていない。もっとSEがイキイキ働き,日本の情報化を引っ張るようにならないとダメだ。そうでないと日本の企業の情報化はうまくいかないし,ひいては日本の国際競争力が弱体化する」という主旨で,筆者流の「SEの在り方論」を書いてきた。

きっと読者の中には「耳の痛い話だ」とか,「現実を知らない理想論だ」などと思われている方もいると思うが,少しでも心に何かを感じ,成長の糧にしていただければ幸いである。

 さて,平成20年の初回にあたり何を書こうかと考えたが,筆者がSE時代,毎年末・年初に思っていたことを書いてみたい。

一年の仕事を振り返り“喜び"と“決意"をかみしめる

 筆者は若いSE時代,毎年末・年初に自分の“SE履歴”を振り返っていた。例えば,SEになって4年経った頃には「1年目は○○顧客の△△業務のプログラムを何本作った」,「2年目の2月~6月には□□先輩について◇◇顧客で▽▽システム導入をした。提案書も初めて作った。その後は…」,「3年目の3月~9月は小規模システムだが◯◯プロジェクトをやった,10月からは…」そして「4年目は1月から全国ネットのシステムの設計をした」という具合である。

 そして自分の仕事歴を振り返っては「自分はこんな仕事ができるようになった」とひそかに喜んでいた。きっと読者の若手SEの中にも,同じような“心の喜び”と“感動”を味わっている人がいると思う。これは技術屋特有の,“未知の技術”を体験した無上とも言える“喜び”である。

 もちろん,誰しもそんな時は「あの時はあんな失敗をした」という苦い経験も同時に思い起こす。だが,それもまた終わったことだから,ほろ苦い懐かしさを感じるものだ。そんな中で毎年,新年を迎えると,筆者は「今年はぜひ□□ができるようになりたい」と心密かに決め,それに向かって心新たに1年間努力したものだ。

 もちろん苦労もした。当時,筆者の担当顧客は小規模ユーザーだったので,「中型OSや大型OSを知りたい,あの製品を使ってみたい」と思っても,顧客にそんなシステムがなかった。そのために営業担当者とともに販売活動に力を入れ,中・大型OSを顧客に売り込んだ。そしてやりたい技術を身に付けるなど,少々乱暴なこともやったものだ。

 また言うまでもないが,年初「今年は…」と思っても,それが実現できなかった年も当然あった。そんな経験をした筆者にとって,若い時代の未知の技術へのあこがれや,技術に対する好奇心と意欲が,自分の成長の原動力だったと思う。

 言い換えれば,「あの年は△△ができた,翌年は◯◯ができるようになろう,という“SEの履歴書作り”の楽しみが自分を成長させたものと思う。それらを通じて,技術力のみならず顧客との対応の仕方,職業観,ビジネス観などSEの仕事にまつわることなどを色々学んだ。

目標と日々の努力なくして成長はない

 今年も「2008年」という新しい年になった。きっと読者の若手SEの多くは既に今年は「あれをやろう,これをやろう」と抱負を抱いて“SEの履歴書作り”を意識して心新たに取り組んでいると思う。

 技術は自分で獲るものである。天才でない限り,目標を持って毎年毎年,日々努力することでSEは成長する。野球の世界でも,打率2割6分のバッターが,地道な努力なくして翌年急に3割3分打てるわけはない。要は夢と目標を持って,それに向かって地道に精進することだ。それがSEの成長の原点である。

 もちろん,履歴書作りには,SEマネジャのジョブアサインや,仕事がしやすい環境作りなど,支援も必要だ。だが,ビジネスの世界では思い通りに行かない時もある。そんな時にはSEも入社5~6年経てば,上司がやってくれるのを待つ “待ちの姿勢” であってはならない。“自分の成長は自分で獲るんだ”という発想で,ボスと相談して自分の履歴書作りに意欲的に取り組むべきだ。

 それも自分の成長だけ考えるのではなくビジネスも考えながらだ。例えば,「自分があんなことができるようになりたい」と言うことが適えられる仕事があれば,今の仕事をやりながらでもその仕事をやることだ。

 と言うと,SEマネジャやSEの中にはきっと,「それではワークロードが増える。冗談ではない」などと文句を言う人がいると思う。そんな人には,「気持ちは分かる。もちろんワークロードには限度はある。だが,人間は厳しい環境に置かれると知恵や工夫を発揮して,新しい仕事のやり方を模索するようになるものだ。すると何とか良いやり方を見つけるものだ。従来然のワークロード(人工)的発想の世界の中では,能力で飯を食うプロのSEにはなれまい。人工で飯を食うSEになるしかない」と言いたい。

 一通りいろいろな経験をした中堅SEやベテランSEには,次のことを言いたい。現在,どこのIT企業でも「SEにプロジェクト管理力をつけたい、提案力をつけたい」という声が実に多い。その意味において,中堅SEやベテランSEの方は「自分はどうだろう。合格だろうか」と考えてみてほしい。「自分は他社のSEに負けない提案活動ができるか」,「プロジェクトがきちっとできるか」,「他社のSEに負けない技術力を持っているか」と自問してみてほしい。
そして不合格なら,今年は何をできるようにするか,どんな履歴書を作るか,中堅SEやベテランSEならではのものを作ってほしい。

 またSEマネジャは,「部下の何%が合格か」を考えてみてもらいたい。そして不十分なら中堅SEやベテランSEの履歴書作りを支援・指導してほしいものだ。

毎年自分の履歴書を一行一行充実させよう

 以上色々述べたが,SEの方々には,新しい年を迎え,心新たに“自分の履歴書作り”に是非挑戦することを勧めたい。そして来年も再来年も,自分の履歴書を一行一行充実させてもらいたい。

 SEの成長には時間がかかる。SEの仕事には幅の広さと質の深さがある。顧客やプロジェクトが異なれば,仕事のやり方も基本は同じでも,やり方は微妙に異なる。それをモノにするには,毎年目標を決めて「◯◯ができるようになろう」,「□□ができるようになった」という地道な履歴書作りを続けるしかない。それも年々ステップアップする履歴書作りが肝要になる。

 SEの方々はぜひそれに挑戦して,年々自分の経験の幅を広げ,素晴らしいキャリアを作ってほしい。そこに皆さんひとりひとりの成長と,明日の企業の発展がある。

 「SEは毎年履歴書を作ろう」。これが今日の一言である。