中堅ソフト会社の日本システムディベロップメント(NSD)が経常利益率20%を射程距離に入れた。05年度の17.8%から06年度に19.0%にアップ。07年度計画は業界平均5~7%を大きく上回る19.5%である。07年11月に開催した07年度中間期説明会で、冲中一郎社長は粗利益率30~40%の案件の比率が45%に増加したのに対し、同20%以下の案件は12%に下がったことを明らかにした。これからの成長に向けて、「人材育成と確保が大きな経営テーマになる」(冲中氏)とし、ITサービス業界における位置付けをより明確にするという。

 こうした中から生まれたのが07年8月から売り始めた「グッぴー」だ。熱帯魚ではない。株数や株の保有期間で獲得ポイントを決めて、それに応じて様々な商品を株主に提供するという同社が編み出した株主優待サービスの名称。通販の千趣会と組んでいるので、提供する商品の品揃えは豊富である。

 この仕組みは元々、自社用に開発したもので、安定した個人株主を増やしたい上場企業に売り始めた。NSDの小岸勲会長は「見えない株主とリンクが取れないかを考えたのがそもそもの発端だった」と話す。株主が見えないと様々な問題が起きる可能性があるという。例えば、株主の意見を吸い上げられなかったり、会社側の意見を個人株主にうまく伝えられなかったりすると、株主総会で決議したい議案が否決されるかもしれない。

 が、「相手が分からないと、働きがけようがない」(小岸氏)。そこで、専門業者などを使って、誰が株主かを調べたりする企業もある。NSDの場合、06年9月期の株主分布は金融機関が30%(証券会社含む)、その他法人11%に対して、個人が19%、外国人が37%である。会社法で決議は3分の2以上の賛成をえるうえで、個人と外国人の意見が重要性に意味を持つことが分かるだろう。それでも、機関投資家や個人株主に会社提案に賛同してもらう手立てをみつけられず、株主総会に悩んでいる企業の中には、MBO(マネジメントバイアウト)などで上場廃止を考える経営者まで出てきている。

 だが、小岸氏はそうした考え方に否定的だ。そこでNSDは個人株主とのコミュニケーション手段として、「インターネットを駆使すれば、問題が解決できる」(小岸氏)と考えた。「株主がどんな考えなのか」、「NSDが何を考えているか」を双方向性で知り合うために、まずインターネットを使ってアンケート調査することにした。そのきっかけが株主優待サービスになる。手始めに06年9月時点の個人株主約5700人に株主優待サービスを通知し、申し込みがあった約3000人に「NSD株を持った理由」や「NSDを知った理由」、「株主優待制度への意見」などを聞いた。

 07年3月末で約1800人からという高い回答を得られた。「NSDの事業内容が分かった」「知名度は低いが、IT企業なので購入した」「株主重視の姿勢に期待する」などといったNSD株を買った動機などを分析できれば、それ事態がIR活動にもなる。加えて、どんな人がNSD株を購入してくれたのかが分かれば、そうした個人株主を増やせる可能性もある。会社の施策に、個人株主が「イエス」なのか「ノー」なのかを直ぐにつかめるし、個人株主が会社に意見をいえる場にも、「グッぴー」はなるという。「個人株主は会社提案の98%は賛成してくる」(小岸氏)だけに、個人株主を増やす意義は大きい。事実、「グッぴー」で、NSDの個人株主は06年9月末の6328人から07年3月末に8023人に増えたそうだ。

特色あるソフト会社に欠かせないサービス事業

 この仕組みを考えた1人が入社3年目の高橋麻美さんだ。今、NSD子会社で「グッぴー」を企業に売り込むシェアホルダーズ・リレーションサービスに在籍し、新しいサービスを考えている。例えば株券の電子化に伴って、紙の株券がなくなることに不安を持つ個人株主に、株主カードを発行し、株の長期保有につなげられる方法に取り組んでいる。つまり、サービスでファンを増やすことだ。NSDは08年中に10社程度の顧客を獲得する考えだ。

 実は、「グッぴー」には海外の個人株主を獲得したいという狙いもあった。カナダのポイント・ドットコム社と提携し、NSDの株主優待で獲得したポイントを例えばアマゾン・ドット・コムやスターバックスなどのポイントに換えられるようにするためだ。しかし、様々な理由からそれを実現できなかったことで、NSDは日本の個人株主を対象に株主優待サービスをスタートしたという経緯がある。

 NSDが「グッぴー」のITシステムをサービスとして提供する狙いが別にもある。サービス事業の1つと位置付けることで、システム開発の次の新規事業に取り組んでいることを、株主に伝えることだ。ソフト会社は株主など多くの人から何をやっているのか分かりづらい面がある。会社カタログを見ても、事業内容の違いが見えない。「何でも屋」だからだ。

 ソフト会社は特徴のあるITサービスを開発しない限り、生き残れない時代が近づいている。人月から付加価値の高いサービス事業者に脱皮する上でも、サービス作りは欠かせないだろう。

※)本コラムは日経ソリューションビジネス07年10月15日号「深層波」に加筆したものです。