三菱総合研究所(MRI)がITサービス事業の強化に動き始めようとしている。同社の田中將介社長は「当社の強みであるシンクタンク機能を生かしたコンサルティングとシステム構築を展開していく」とし、M&A(企業の合併・買収)などアライアンスを強力に推し進める考えを明らかにした。

 MRIには、研究・調査に携わる人員が約650人(全体は約800人)いる。先端技術などの研究・調査や戦略立案・計画策定を手掛けてきたものの、その実現に関与してこなかった。いわば空理空論の世界にとどまっていたわけだ。そこから脱するために、コンサルティングからシステム構築まで請け負える体制の整備が欠かせないとし、ITサービス事業強化に乗り出すわけだ。ただし、「シンクタンクのあるべき姿を追求した答えであって、システム開発会社のあるべき姿とは異なる」(田中氏)とし、既存のシステム開発会社とは一線を画するという。

 それでもITサービス市場でトップ5、10を狙う考えがある。その一環から、旧三菱銀行のIT子会社であったダイヤモンドコンピュータサービス(現三菱総研DCS)を05年3月に傘下に入れた。この9月には三菱レイヨンのIT子会社MRC情報システムに資本参加(MRIが20%、三菱総研DCSが15%)もした。

 このようにユーザー系IT子会社とシステム構築会社のM&Aを活発化させていく計画である。背景には、三菱東京UFJ銀行や三菱UFJリサーチ&コンサルティング、三菱総研DCSを介しての案件が数多くあることもある。なので、MRIは品質やプロジェクトの管理力のあるシステム構築会社もM&Aのターゲットにするという。MRIはホールティング的な色彩を強めていくのかもしれない。

 一方、既存のシンクタンク部門の研究者らに対して、経営陣は意識改革を促してきた。「システム・コンサルティングへの展開の必要性を繰り返し説いてきた」(田中氏)。シンクタンクの力をユーザー企業の経営に生かすには、これまでの家内工業的な研究者個人で対応する方法から組織対応に転換する必要がある。「(一匹狼的に1人で活動していたこともあり)、研究者はシステム案件に関心がなかった。だが、今後はそれをビジネス展開していくことを伝えてきた」(同)。

 しかも、「ユーザー企業はどうしたらいいのか困っているものの、何をしたらいいのか分からない。人もいない。変えるための答えを出すうえで、シンクタンクの手法が使える」(田中氏)とニーズの高まりを期待する。ユーザー企業の事業解析から入り込み、システムのグランドデザインを描くところから手掛けられれば、ユーザー企業の10年間のシステム化計画にも深く関与できる。もちろんシステム構築も請け負える。

 ここに、売上高500億円近くになる三菱総研DCSの力を発揮できる。しかも、同社は約40万人に給与計算処理を請け負っており、ここからBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)へと広げられる発展性もある。三菱東京UFJ銀行など金融機関向けの依存度が高いままでは成長できないので、一般企業や官公庁、教育機関の案件獲得も目指すうえで、同社が弱いコンサルティング力もあるMRI傘下に入る意味があったという。銀行側も取引先との太いパイプ作りにITを軸にして資産管理や決済へと広げたいという考えもあり、DCSを含めたMRIにユーザー企業を紹介する関係もできている。

 今、ITサービス市場は大きな変革期にある。市場の伸び率は停滞し、利益も伸び悩み傾向にあり、閉塞感が漂いはじめている。その状況を打開するには、業界再編が必要といわれている。新しいITサービス業を創出する手もある。系列同士の合併から大手が中堅を買収する段階に入り、次に起きるのが売り上げ5000億円を目指した大連合になる。三菱重工業や三菱電機、三菱商事など三菱グループ会社に数多くのIT子会社があり、それからを束ねるITサービス会社ができたら強力な存在になるのは間違いないし、業界再編を加速させるだろう。今後、MRIがそれを仕掛けるのかに注目したい。