Bank of AmericaのSenior Vice President Tim Golden氏
Bank of AmericaのSenior Vice President Tim Golden氏
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 OSSセンターの姉崎章博です。先日(2007年10月30日)明治記念館で開催されましたIPAフォーラム2007 の基調講演にBank of America上級副社長のTim Golden氏による「Bank of AmericaはなぜLinux/OSSを採用したのか?」という,とてもおもしろいお話がありました。

Bank of Americaが享受しているOSSのメリットと活用ポイント

 Golden氏によれば,Linuxの採用によってTCO(総所有コスト)を42%削減できたそうです。OSSを使ったアンチスパム・システムは,プロプライエタリのソリューションだと200万ドルのものが90万ドルでできたとのこと。OSSの品質はプロプライエタリと同じくらい,時にはプロプライエタリより高いなど,大きな導入のメリットを得ているといいます。

 OSSの活用のポイントとして以下の3つを挙げていました。

(1)OSS化は,あまり急がないこと。あまり大事ではないことは忘れて,一つずつ実現すること。
(2)社内の理解を得ること。
(3)標準化。

 また,他人の経験を聞くことができるので,「コミュニティへ,もっと早く参加すれば良かった」と述べ,話の最後に「コミュニティに参加できるOSSのメリットはその開発プロセスに投票権があることだ。」と締めくくっていました(関連記事)。

 このような,ユーザー企業が心得ておくべきノウハウは,ユーザーごとに少しずつ違いがあるものの,だいたい共通認識となる項目があります。しかし,いざ,これを社内で話をしようとすると,聞いただけでは,自分の身に置き換えて話すことはなかなか難しいと思います。そういうときに,なにか文章で書いたものがあると便利だと思いませんか?

「IPAの本にもこう書いてある」と使ってほしい


「オープンソースで構築!ITシステム導入 虎の巻」を持つ著者
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 このようなニーズに応えるべく,IPA OSSセンターではIPA OSS BOOKSの第3弾「オープンソースで構築!ITシステム導入 虎の巻」を発行しました。ちょうどBank of America上級副社長のTim Golden氏の講演と同じIPAフォーラムで初披露となりました。

 この本の全体構成は以下のとおりです。

第1章 ITシステムのあり方を変革するOSS
第2章 実際に活用できるOSSをもっと知ろう
第3章 安心して賢く使えるOSSの世界を知ろう
第4章 最大限のリターンを得るOSS導入への道
第5章 OSS iPediaにみる導入事例
第6章 実例取材からみるITシステム例
第7章 知っておきたいライセンス
付録  OSSの定義,用語集,OSSライセンスFAQ

 このように7章と付録の8つの構成からなっています。

 この第4章 「4.2メリットの大きい活用を実践しよう」に,チェックポイントとして「初期 導入費用を抑えて段階的なITシステム化の重要性を周囲に理解してもらいましょう。」,「担当者の試行錯誤により,整合性が取れていないITシステムになったり,拡張不可能なものになったりしないようにできるだけ標準化しましょう。」などとTim Golden氏が述べられたことと同じスタンスの話を記載しています。

 第1章から第3章,第4章4.1まで,なぜ,そのような必要があるのかを理解するための助けになるように,OSSの動向やOSSの構造,開発コミュニティの状況,TCOとROIの考え方などを解説していますので,第1章から第4章までは続けて読んでいただきたい内容です。また,第6章では,6つのユーザー企業を取材し,どのように活用したか生の声をお伝えしております。

 この本の読者対象は,ユーザ企業のITシステムの企画・発注担当者,特に,今までOSSを活用するシステム構築を検討したことのない方を想定して,企画立案時に必要な情報を提供することと,企画立案に当たって,OSSも考慮しなければならないかな,むしろ,積極的にOSSを考慮すべきかな,と思っていただけることを目指して企画いたしました。

 そして,社内で,OSSの活用を説得する必要がある場面もあるでしょう。そういうとき,「IPAが出している本にもこう書いてあります。」と利用してもらえることを想定しました。

 さらに,ITシステム化に躊躇されているような企業の方にも,OSSなら初期投資も少なくITの初めの一歩を踏み出せるのではないか,そういう方にも読んでいただけないか,それにより日本のIT化をもっと進めることができないか,そんな期待も込めました。

 そのためには,文字中心の書籍ですぐに飽きられないよう,見開きに一つ図があるような書籍になるよう努めるなど様々な工夫も施しました。その図を使って,社内に理解を得るためのプレゼン資料にも使えるようにと考えています。

けっこう多い,GPLに関する間違った認識

 またこの本は,短期間でまとめたものではありません。IPA OSSセンターが事務局を務めている日本OSS推進フォーラムでの過去数年間の活動の成果を凝縮したものです。

 IPA OSSセンターには,GPLに関する間違った認識に基づく問い合わせも寄せられます。例えば,「特許侵害で訴えられたくないので,GPLでリリースしたい。ついてはGPLにするための手続きを教えてほしい。」という問い合わせがありましたが,GPLでリリースすれば特許侵害で訴えられなくなるわけではありません。このような間違った認識の是正と,具体的な手続きの解説もまとめて掲載しました。

 そのため,第3章は,サポートインフラWGの 資料「オー プンソースソフトウエアが開発コミュニティからユーザー に届くまでの仕組み」をベースにしていますし,第4章は,ビジネス推進WGの 資料 「オープンソースソフトウエアのTCOガイド」を ベースにしています。一度,見たことのある内容かもしれませんが,より理解しやすくなるよう工夫いたしました。

 また,第7章に「7.3 OSS提供の際の留意点」として手続きを記述することができましたし,パテントフリーの間違いについても付録の「04 ライセンスに関するFAQ」に

「Q. GPLで公開すれば,特許で訴えられることはなくなりますか?
 A. いいえ,そんなことはありません。・・・」

など,全部で15のQ&Aを掲載しましたので,この点に疑問をお持ちの方にも有用な資料になっていると思います。

 このように,OSSに馴染みのないITシステム企画・発注担当者の皆様,その他,多くの皆様に読んでいただけれたら,また,なかなか周 りにOSSを広めるための良いテキストがないとお困りの方にご活用いただき,OSSへの理解が少しでも広まれば幸いです。