「こんなことを人に話せるなんて思っていませんでした。」。Cさんはポツリと言われました。話してスッキリしたとのことでしたが、ITプロフェッショナルの仕事にまつわる日常的な会話でしたので、こんな話ができないと思っておられたことに、少し驚きました。

言っても仕方がない

 話というのは、プロジェクトのムードのことや、協力会社メンバーのこと、残業のこと、頑張っているけど苦労がなかなか報われないことなどで、大変そうではあるものの、誰にも話せない内容のようには感じられませんでした。更によくお聞きすると、話してはいけないというよりも、「耳を傾けてもらえるはずがない」「話しても意味がない」と思い込んでおられたようでした。これまでに何度か、職場の上司や仲間に、たまには残業せずに帰りたいとか、協力会社さんのことで悩んでいると話したそうなのですが、「みんな頑張っているのだから仕方がない」などと言われ、話をしても支援を得られないし、迷惑そうにされると感じ、そのような話はするまいと考えるようになったのだそうです。

 IT需要が更に拡大するなか、顧客からの納期や費用の圧力は相変わらず高く、個々のプロジェクトでは厳しいやりくりが続いていますよね。また、この業界に限らず、プレイングマネージャであることが定着しつつあるラインマネージャは、物理的・精神的に余裕をもてず、ヒューマンケアに充分なパワーを投入しにくいと言われています。Cさん自身もそれらを察しているため、誰にも言わず、しんどさを溜め込んでおられたのでした。このようなケースは今どきよくあることかもしれませんが、このままでは、CさんのようなITプロフェッショナル自身も、その集団としての組織も、元気を失うばかりです。何とかならないものでしょうか。

個人が変わる

 ひとつには、対話を通して、Cさん自身のものの見方や認識をちょっと変えてみるというアプローチがあるでしょう。カウンセラーのような専門家と話すのもいいでしょうし、仕事を離れた友人や家族など親しい人に付き合ってもらって、自分にとって大切なこと(Will・Can・Must)を整理しなおしてみるのもいいかもしれません。うんと年齢の離れた、職場の大ベテランと話してみるのも、違った視点を得られる可能性があります。「こうでなければならない」「こうに違いない」といった思い込みやこだわりが減って、気兼ねなく話したり、思いきって休養したり、人に任せたりといった具合に、自身の心身の声に沿った行動ができるようになると、同じ環境の中でも、いくぶん楽になることが期待できます。

 もうひとつ考えられるのは、Cさんを取り巻く状況を変えるというアプローチです。

先ずはCさんの上司。傾聴スキルを日常的に活用できるレベルにまで高めていいただくとか、部下の話に耳を傾ける時間をスケジュールに明確に組み込んでいただくとか、定例会議などで「出来ていない事」だけでなく「出来た事」を確認し、メンバーを労っていただくというのも有効かもしれません。