「2011年頃のタイミングで20ペタFLOPS機を出荷する予定だ」。スーパーコンピュータ専業メーカーである米クレイのピータ・ウンガロ社長兼CEO(最高経営責任者)は07年10月、記者のインタビューにこう答えた。文部科学省が約1150億円を投入して開発に着手した次世代スーパーコンピュータ(10ペタFLOPS)の性能を上回るものを、クレイが同時期に出荷を予定していることは、日本の威信をかけたこのプロジェクトに波紋を投げ掛けるだろう。

 次世代スーパーコン・プロジェクトは、富士通が提案したスカラー方式とNEC/日立製作所連合が提案したベクトル方式を組み合わせたハイブリット型システムで、理化学研究所を中心に世界最高速機の開発を目指す。これから詳細設計に入り、2011年度に完成される。

 NECの丸山好一執行役員は10月25日のスパーコンSX-9の発表会見で、「我々は最高性能を追及するよりも、使いやすさと高性能のバランスをよくする。いたずらに最高性能を追求しないが、SX-9に使うプロセッサ(単一コアで100ギガFLOPS超)は世界最高速である」と語り、NEC単独で1ペタ近い性能を実現させたとする。

 クレイの現行最高速機は100テラFLOPSだが、09年に1ペタFLOPS機、そして20ペタFLOPS機を出荷していく予定。同社は開発にあたり、(1)パフォーマンス、(2)信頼性、(3)使いやすさ、の3点を注力しているが、最も重要視しているのがパフォーマンス。高性能機を求めるユーザーのニーズはますます高まっていることから、年間約1億ドルの研究開発費を投入し、新機種開発に力を注ぐとする。

 そのポイントは、アクティブ・スーパーコンピューティングというクレイのビジョンにある。AMDなどコモディテイなプロセッサに加えて、アクセラレータやグラフィックス処理などに威力を発揮するプロセッサなど選択肢を広げるとともに、スカラー、ベクトル、そして両方式を組み合わせたハイブリット型を揃える。「こうしたいくつかのプロセッサを選択し、大規模システムを作る」(ウンガロ氏)。現在は、ベクトル向け、スカラー向けなどとアプリケーションごとに異なるプロセサで計算処理をしているが、クレイはアプリケーションを意識せずにプロセッサを自由に選択し使える仕組みにする。これがアクティブ・スーパーコンピューティングである。ユーザーからはあたかも1つのシステムに見えるようにすることで、スカラー向け、ベクトル向けアプリケーションだということを気にする必要がなくなるわけだ。

年間1億ドルを研究開発費にあてる

 その第一弾は07年11月に開催されるスーパーコンピューティング2007で発表する。レイニアと呼ぶプロジェクトで、08年1月に出荷するこの機種はキャビットレベルの統合を図る。つまりファイルシステムなどを共有する仕組みだ。次の段階で、異なるプロセッサを統合させる。「カスケード(開発コード名)はシリコン・レベルでの密結合になる」(ウンガロ氏)。2010年頃になる。理研中心で開発するハイブリット型を、クレイは08年に実現させるということになる。

 同社の06年度売上高は前年同期比38%増の2億2100万ドル(約265億円)。「07年度、08年度はそれぞれに新製品を出すので、2ケタ成長を維持させる」(ウンガロ氏)計画。過去1年間で、受注残は約7億ドルもあるので、達成可能だとする。ただし、06年度は赤字だったようだ。「共同投資もあるので、07年度に改善させ、08年度に利益率10%を確保したい」(同)。NECも07年度にベクトルのみで約200億円の売り上げを狙っているので、両社の受注競争に注目が集まる。

 NECは東北大学情報シナジー機構情報シナジーセンターに26.2テラFLOPSのSX-9を受注しているが、クレイは07年11月には横浜市立大学に4テラFLOPS超機(368ノード構成)を、08年3月に国立天文学にAMD製Opteronを搭載した26テラFLOPS機をそれぞれ納入する。近い将来、日本での売り上げをワールドワイドの10~20%にする計画である。