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小飼弾 404 Title Not Found

叡智の値段

2007/11/02

群衆の叡智サミット2007の参加者のみなさま、お疲れさまでした。パネリストとしても大いに楽しませていただきました。

参加できなかった方のために、私がどんなことを主張したのかをここにまとめておくことにします。

まずは質問です。叡智(wisdom)の値段(price)って幾らでしょう?ここでは「今まで人類が貯めてきた叡智すべて」ということにします。

100兆円?1000兆円?1京円?

答えは、マクドナルドのスマイルと同じ、0円です。

例えば、E = mc2。この式そのものは、1Jのエネルギーどころか光子一個生みません。叡智というのは情報という無形のもので、無形のものでも有形のものに保存したり有形のもの(例えば脳とかコンピューターとか)を使って処理したりするコストはかかりますが、叡智そのものは無形かつ無額なのです。

値は行動に対して付く

ところが、この叡智を元に原発や原爆を作ったりすると、それらには値段が付きます。原発だと、一基4000億円ほどだそうですが、E = mc2は売り買いできなくても、原発であれば売り買いできるわけです。

重要なのは、叡智は形あるものにしてはじめて値がつくのです。要するに、値段は叡智そのものではなくそれを体現したものに対して支払われるのです。だから特許権も、アイディアそのものというよりアイディアの具現化法に対して設定されるのですし、著作権も著作そのものというより本やレコードといった「著作の器」をどう扱うかということを規定しているのだ、と私は考えています。

叡智は0円であるだけではなく、0円でなければならない

叡智の値段が0円であるもう一つの証拠があります。値がつくものは所有可能なのです。所有可能というのはどういうことかというと、私が持っているものはあなたは持っていない、ということです。私のものをあなたのものにするには、あなたの代金と私のものを交換しなければなりません。交換した後は、今度はそれ--が何であれ--はあなたのもので、私の手元からはなくなります。

叡智には、こういった排他性はありません。私がE = mc2を知っても、アインシュタインがそれを知らなくなるということは起こりようがないのです。自分が持っている叡智を他人に与えても、あなたの叡智は少しも減らないのです。

こういったものに値段をつけてしまうと、お金にお金としての意味がなくなってしまいます。

だから叡智はゼロ円ということにしておかなければならないのです。

「群衆の叡智」は誰のものか

このことは、群衆の叡智と絡めるとより重要な示唆となります。群衆の叡智は誰のものか?叡智を供出した人々だけのものなのか?それともそういう場を提供した人々のものなのか?

しかし、「だれのもの」という設問は、所有権を設定できるものに対してのみ意味を持ちます。しかし、今見たように叡智には所有権が設定できません。よってこの質問は、質問そのものが無意味かつ無価格なのです。

「みんな」の叡智は、「群れない」ほど賢くなる

以前The Wisdom Not to Crowdですでに同様の主張をしましたが、群衆の叡智が成立するのに最も不可欠なのは多様性であり、この多様性は群れることによって損なわれる以上、叡智を得たかったらなるべく群れないままの方がいいのです。

このことは、直感的にもわかります。同じ10人でも、「家族全員で一致」と「日本国内でランダムに選んだ10人が一致」では、後者の意見の方が「賢く」感じられますし、「日本国内」と「世界全体」では、これまた後者の方がより賢そうです。

「群衆」とか"crowd"とかという言葉を「叡智」とか"wisdom"という言葉と結びつけるのに私が躊躇する理由が、これなのです。漢字で書けば、むしろ「散衆」というのが最も適切に思えます。英語ではなんというべきかは「みんな」(私を含む)宿題にしときます。

具現化力は、「群れる」ほど強くなる

ところが、叡智を形にしようとしたときは、その真逆に、群れれば群れるほど力は増します。世界中に散らばった10人と、寝食をともにしている10人の家族とどちらが「値がつく」行動をとりやすいかといえば、断然後者です。

これこそが、我々が「群れる」理由です。群れることで我々は「バカ」になります。しかし「バカ」にならないと我々は行動できないのです、「なぜピラミッドを築くのか」という設問は叡智を感じますが、それをピラミッドを築いている最中に発したらそれは単なる仕事の邪魔です。

値段(price) != 価値(value)

一つ勘違いして欲しくないのは、私は「叡智に価値がない」と言っているわけではないということです。叡智は0円ですが、価値はpricelessというのが私の意見です。

もちろん、無理矢理値段を付けることも可能です。例えばある知見がある場合に何かをする場合と、それなしで済ませた場合の費用の差を「ある叡智の値段」と見なすとか。時には「ない」ものを「ある」と過程して振る舞うべき、というのも立派な叡智でしょう。

しかし、根源的には叡智の価格は0円なのです。このことを勘違いするから、さまざまなところで話がこじれるのだと私は感じています。

宿題 - 賢く判断し、強く行動するにはどうしたらよいか

長くなったので本entryはここまでにしておきます。我々が本当に知りたい「賢く判断し、強く行動するにはどうしたらよいか」ということは、今後の宿題ということにしておきましょう。あなたと、私、みんなの。

Dan the Priceless


編集部より:今回の記事は,小飼弾氏のブログ404 Blog Not Foundより編集し転載させていただきました。本連載に関するコメントおよびTrackbackは、こちらでも受け付けております。

著者プロフィール

 Perl本体の開発チーム・メンバーであり,Perlで日本語を扱うためのモジュールJcode.pm,多言語変換モジュールEncode.pmの開発を手がけたオープンソース・プログラマ。そのほか多くのPerlモジュールを開発しCPANで公開している。元オン・ザ・エッヂ取締役最高技術責任者(CTO)。著書に「達人に学ぶPerl/CGI道場」(インプレス刊)がある。約2万冊の蔵書を持つ重度の活字中毒者としても知られる。「404 Blog Not Found」で社会や技術に対して積極的に発言している。

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