「仮想化の説明から入ると相手にしてもらえないが、環境対策として話をすると聞いてもらえる」-----日経ソリューションビジネス10月30日号のこの話、なかなか刺激的だった。仮想化提案の錦の御旗と言えば、今も昔もTCO削減。でも、ユーザー企業にはそんなに響かない。もちろん仮想化は今引きがあるが、それは“部分最適”のツールとしてであって、全体最適の観点からはイマイチ。「なぜだろう」と考えていた矢先だったので、ちょっとしたヒントになった。

 とにかく環境対策、特にCO2削減ソリューションには、ユーザー企業の食い付きがよいそうである。仮想化もその文脈で、「サーバー統合により消費電力を抑え、CO2削減に貢献しましょう」という提案がユーザーに響く。そう言えば、「IHIが仮想化技術を導入したサーバー統合でCO2削減」といった内容のニュースリリースを、日本IBMが10月30日付で発表していた。どうやらCO2削減は、仮想化提案にとってTCO削減に代わる強力な錦の御旗になりそうな雲行きである。

 CO2削減がなぜ強力な錦の御旗になるかと言えば、ダイレクトに経営マターだからである。「あれぇ、TCO削減もそうじゃん」という突っ込みは横に置いて書くと、CO2削減は昔の社会貢献活動のようなぬるい話ではなくなっている。京都議定書の約束期間の初年度を来年に控え、生産現場を中心にCO2をはじめとする温暖化ガスの削減目標を業界別に定めるなど、尻に火が付いたような騒ぎになっている。

 でも、こうした削減目標だけでは、日本が義務付けられている削減量に足らない。次の課題として、一般家庭と共にオフィスなどの業務部門でのCO2削減が焦点になりつつある。オフィスと言えばクールビズ/ウォームビズだが、従業員を暑がらせたり凍えさせたりするのはもう限界。必然的に、CPUパワーを余らせて、無駄に電気を鯨飲馬食している情報システムを何とかせいという話になる。

 ここまで具体的な課題になってくると、さすがに日本企業でも多くの経営者がリーダーシップをとる。しかも、セキュリティや内部統制と違い、電力コストも含めたITのTCO削減という“余禄”まで付く。かくして全社的な課題として、仮想化技術を活用したサーバーやストレージの統合、全体最適といったテーマにIT部門は取り組めるし、ITベンダーも仮想化ソリューションの提案の余地が広がるわけだ。

 ところで「ITのTCO削減は経営マターじゃなのか」だが、もちろん経営マターである。だから、ITベンダーは仮想化の提案でもTCO削減を持ち出すのだが、ユーザー企業が仮想化技術によって全社的なサーバー統合、ストレージ統合に乗り出そうという話にはなかなかならない。どうしてだろうと考えてみると、コスト削減は部門単位で取り組むのが日本企業の作法だからだ。なら、IT部門がTCO削減のため仮想化によるサーバー統合を・・・と言いたいところが、これが結構難しい。

 多くの日本企業でIT部門がエンドユーザーの下請けになって久しい。つまり各ユーザー部門がIT予算を持ち、IT部門は“お客様”であるユーザー部門から仕事を頂いて業務システムを作り、運営しているケースが多い。だから、部門単位でサーバーが立ち、部分最適の業務システムができる。CEOからIT戦略の立案・執行を委任されたCIOなんぞはおらず、各ユーザー部門の下請けに過ぎないIT部門が、部門横断的にサーバーを統合して、ITのTCO削減を実現しよう、などと働きかけるのは不可能なのである。

 そんなわけだから、ITコストの削減と言えばリストラ。つまりIT部門の人減らしに注力することになる。結果として、IT部門は弱体化し、ますます何もできなくなる。仮想化の話にしても、IT部門の権限が及ぶ“サーバールームでの仮想化”や、ゴミデータの山となった部門システムでのストレージ統合など小さな話に留まってしまう。コスト削減に本当に効果があるエンタープライズでの全体最適の取り組みなど、夢のまた夢。そんな企業が多いから、米国ほどTCO削減はセールストークとしては響かないわけだ。

 それに比べるとCO2削減は、経営者の強い関心とリーダーシップがあるので強力な課題設定になる。こういう文脈でCO2削減を語ることが正しいかどうかは別にして、CO2削減は仮想化提案の際の強力なツールになり得る。IT分野においてCO2削減、環境対策と言えば、主に省電力化など主にハードウエアのマターが多いが、仮想化と組み合わせることでSIの領域のマターにもなる。だから、ITサービス会社も仮想化とCO2削減を組み合わせた提案戦略を検討してみる価値はあるだろう。