先日,流通科学大学 辻新六先生のお招きで,年に一度の「経営情報特講」の講師を勤めました。その冒頭で受講生に真っ先に伝えたメッセージは「ICT(Information and Communication Technology)は誰でも使えるただの道具に過ぎない。生かすも殺すも使う人の知情意で決まる」という当たり前のことでした。

 「知情意」という言葉も耳慣れないと思いましたので,その意味と優先順位を挙げました。「1に 自ら情報受発信を愉しむ意思」「2に 一期一会の出会いを愛でる情」「3に 必要な知恵を得る達人との縁」の順番で大切だという私の考えを伝えたのです。

 ところが,その直後に続けて行った「14の問いかけによる知情意テスト」は,残念ながら惨憺(さんたん)たる結果に終わりました。便利な万能ツールを目前にしながら,まさに知情意の欠乏で活用していなかったわけです。

 しかし,これは何も学生に限った話ではありません。大企業の研修であっても,とりわけ若年社員を中心に,ほぼ似たような結果が出ることが少なくありません。しかも,本来なら情報活用の重要性を説くべきシステム部門のスタッフが,営業部門よりも悪い結果になることが少なくありません。

 これは「現代の病」とでも言うべき由々しき事態です。皮肉にも,情報化が進めば進むほど,ICTを活用して情報を受発信する意欲が薄れていく人が増えています。どんな情報もいつでもすぐに取り出せる社会。人と深く関わり合わなくてもネットを使って暮らせる社会。がんばらなくてもそこそこ食べて行ける社会。その中で,多くの若人の「生命反応」が弱くなっていると感じるのは私だけでしょうか?

14の問いかけによる知情意テスト

 講義の冒頭で,学生たちに問いかけた14の質問は特別なものではありません。いずれも手元のパソコンですぐに実践できることばかりです。

 彼らは,情報特論の講義では,毎回,企業経営者や情報部門リーダーなどの社外講師の話を間近で聞くことができる恵まれた立場にあります。そんな幸せな学生たちに,一期一会かもしれない社外講師と生涯の縁を結ぶための「当たり前の心得」を伝えたつもりでした。

  1. 本日,社名や私の名前で事前にネット検索しましたか?
  2. 私の会社のWebサイトや関連記事を読みましたか?
  3. 私の個人ブログや連載コラムを読みましたか?
  4. 私の著書を買って読みましたか?
  5. 私の好きな映画や本を知っていますか?
  6. 毎回,一番前の席で授業を受けていますか?
  7. 毎回,1つは質問をしますか?
  8. 毎回,社外講師と名刺交換をしますか?
  9. 毎回,今日の感想などを自分のブログに書いています?
  10. 毎回,お礼状やお礼メールを書いていますか
  11. 好きな講師のメルマガやブログを登録して読み続けますか?
  12. 時には,講師のブログにコメントや感想メールを書きますか?
  13. また,講師の講演やセミナーなどを聴きたいと思いますか?
  14. いつか,講師の会社に会いに行きたいと思いますか?

 おおむね厳しい結果になることは予想していました。今年2年めに入った明治大学商学部での毎週の講義を通じて,過剰な期待はできないことを肌身で感じていたからです。それに,学生時代の自分を振り返っても優等生ではなかったので偉そうなことは言えません。残念ながら,学生自身はまだ学べる喜びやありがたさに気づいてはいないものです。

 ですから学生たちに,この講義でぜひとも伝えたかったメッセージは一つだけでした。

「国籍,年齢,性別,学歴,成績を問わず,この問いかけがいつも全問YESの人がいたらきっと成功するでしょう」

 なぜなら,もし,そんな前向きで人なつこい学生がいたら,私に限らず,真っ先に一緒に仕事がしたいと考える人が多いはずだからです。そして,できることなら「その若人の夢を応援したい」と思うのが自然でしょう。