SEマネジャの部下とのスタンスのとり方には,大きく分けて2つのタイプがある。一つは「仕事を部下に任せない,任せられない」タイプ,もう一つは「部下に任せる,部下を通じて仕事をする」タイプである。前回はそれについて言及した。今回はそれをさらに突っ込んで考えてみたい。

「部下に使われる」ことが「ビジネス目標の達成と部下の育成」を実現

 筆者は現役時代,SEマネジャには「SEマネジャは部下を使うのではなく,部下に使われるんだと考えろよ」とよく言っていた。言うまでもないがこの「部下を使うか使われるか」は前回の「仕事を部下に任せるか任せないか」と表裏一体の関係にある。「部下に仕事を任せない」人は往々に「部下を使おう」とするし,「部下に仕事を任せる」人は「部下がピンチの時には部下を助けよう,部下に使われよう」と考えるからだ。筆者は当時も今も,SEマネジャがこのどちらのやり方をするかが非常に重要であると考えている。

 なぜなら,それがSEマネジャの職務である「ビジネス目標の達成と部下の育成」を大きく左右するからだ。そのため前回「SEマネジャは仕事は部下に任せろ。いちいち口を出すな。それよりも大局的なものの見方や,SEの動員力や顧客との交渉力などを身につけ,部下が困ったときに助けろ」と述べた。

 読者の方からは「これはまさに『言うは易し,行うは難し』の典型ですね」とか「SEマネジャが部下と会話ができるIT力を持つことは容易でない」などと言うリアルなコメントも頂いた。確かにそれはそうだと思う。

 だが,SEマネジャの方々はぜひ頑張って「部下に任せる」 SEマネジャになってほしいと思う。今回はその「部下に任せるか否か」と表裏一体の「部下を使うか使われるか」について述べる。読者の方々の参考になれば幸いである。

部下を使おうとすると「自分は偉い」と勘違いする

 どこの会社でも「部下を使う」と言う言葉がある。IT企業も同様だ。SEマネジャや営業マネジャは「部下を使って」システム開発や提案活動などの仕事をすると云う。すると,人間はよほど意識しないと「自分は部下を使って仕事をするんだ」「自分は偉いんだ」と言う意識になりやすい。そうなると往々にして,部下に「あれはどうなった」「なぜだ」「ああやれ,こうやれ」といちいち仕事をチェックしたり指示したりするようになりかねない。SEマネジャも然りだ。

 だが,そこに落とし穴がある。それは前回も述べたが,SEマネジャが部下にいちいち仕事の指示をするには,それなりのIT技術力を持ち,プロジェクトの状況などが技術的に分っていなければならないからである。

 特にIT技術力は不可欠だが,それは変化の激しいITの世界では不可能に近い。仮に,SEマネジャがIT技術力を持っていたとしても,細部まで分かるのはおよそ自分の経験した製品やシステムに限られる。自分が経験しない製品やシステムについてははなはだ難しい。するとそれらにかかわるSEや顧客は往々にして放ったらかしになる。しかも,そのIT技術力が通用するのせいぜい2,3年だ。それが現実だ。

 というように,結局はSEマネジャは部下を使おうにも部下を使えないのである。だが,SEマネジャの中にはそれを自覚しないで使う意識で偉そうに部下と接する人がいる。例えば,ろくに分りもしないのにいちいち仕事の細かいところまで首を突っ込む人もいるが,そんな上司をもった部下こそいい迷惑だ。そんな自己満足の世界に浸っているSEマネジャはマネジャ失格であろう。