ほとんどの日本企業が、コンタクト・センター業務やセンターそのものを外部の企業に委託している。だからこそ、エージェンシー(代理)ビジネスがここまで拡大しているわけだ。

 しかし「そもそも論」として言えば、その企業のビジネスに応じて、外注するかどうかを冷静に見極めるべきである。コンタクト・センター業務がここまで外注ばかり、という状況は疑問視すべきだが、誰もそんなことを論じていない。

 米国がすべて良いと言うつもりはないが、米国企業の外注方針は、そのビジネス形態によってまちまちだ。筆者は国内外含めさまざまな企業でコンタクト・センターのコンサルティング活動に従事してきた。単にコンサルティングするだけではなく、実際に現場に入り、マネジメント・アドバイザーとしてエージェントの採用や教育・訓練を手伝ったりしてきた。時には顧客対応の最前線に立ち、苦情や問い合わせの電話を受け取った。それらの経験をベースに、以前から漠然と抱いていた「不思議なこと」について述べていきたい。

外注ばかりが能じゃない

 かなり前の話だが、旧パシフィック・ベル(パックベル)社が中小企業向けのポケベルと留守番電話サービスを組み合わせて販売を開始した。当時、顧客のサポート・サービスを担うコンタクト・センターの運営について、米コンタクト・センター受託大手であるザクソンに外注した。運営開始当時、センターの従業員は全員ザクソンから派遣されていた。立場としてはザクソンの社員だった。日本でよく見られるような、派遣社員という形態ではない。あくまで正社員である。

 パックベルとザクソンとの間では、計画は次のようになっていた。まずセンターの組織全体はザクソンが編成し、要員を送り込む。要員の教育訓練から品質管理(当時はモニタリングと表現していた)までをカバーする。要員の習熟度が向上して、パックベルが社員として採用できると判断されるレベルに到達したら、コンタクト・センターの従業員として採用する――つまりパックベルの正規社員になる。この方針は、コンタクト・センターのマネジャを除いたセンター従業員のすべてに適応された。

 当時、筆者はザクソンとNTTテレマーケティングのアドバイザーとして働いていた。その際、パックベルのこうしたマネジメントのあり方をしばしば参照したものだった。ちょうどその時ザクソンはスーパーバイザーや品質管理担当の継続訓練期間だった。そんなこともあり、筆者はザクソンのプロジェクト・マネジャに同行し、パックベルの担当者に様々なことを聞いた。

 後になってこの契約の主たる目的を教えてもらった。エージェンシーだったザクソンとパックベルの間の契約は、「コンタクト・センターの運営ノウハウの移転」だったのだ。単なる外注などではないことに注目したい。顧客との接点たるコンタクト・センターが自社にとって重要だと認識するのであれば、「日本型外注」は決して望ましくない。当時のパックベルは、そのことがよく分かっていたのだ。

 受託側であるサイテルの日本法人の生い立ちは、米サイテル本社がオールステート保険会社から自動車保険の通信販売向けセンター運営を受託したことだった。オールステートの日本市場参入プロジェクトに併せて、日本に子会社サイテル・ジャパンを設立し、川崎市にコンタクト・センターを開設した。

 サイテル・ジャパンは、従業員を次のような形で段階的に採用していた。

(1)採用の初期は時間給ベースのパートタイマー(期間最長3ヶ月)
(2)採用基準を満たしていると評価した場合は1年契約の契約社員(この時点で月額給与となる)契約は3年まで毎年更新可能
(3)マネジャ・クラスに登用する場合は正社員

 筆者は最初にこのアプローチを知った。だから、ほかのコンタクト・センター受託業者が時間給の要員を派遣社員として受け入れ業務に従事させるやり方を、ずっと不思議に思っていた。

 これまで筆者はコンタクト・センターの従業者に数回インタビューしてきた。だが、日本のクライアント企業のマネジメントにインタビューする機会はまだない。このため、「なぜコンタクト・センターを外注したり委託したりするのか」について決定的なコメントを得ることができないでいる。

遠隔地でも十分「近しい指導」は可能

 「コンタクト・センターの『惨状』」と題した過去の拙稿を読んでいただきたい。コンタクト・センター大手、トランスコスモスが東京都多摩市に新センターを開設したというニュース・リリースを読んだときの感想を書いている。その感想を簡単に表現すると、不思議だ、裏に何かがある、ということだ。

 同社のリリースには「従来はコストが安い地方での立地を優先してきたが、電話による顧客応対業務が複雑化しているのに伴い、利用企業の間では都市部のセンターに出向いてオペレーターに指示・指導したいとの要望が強まっている」と書かれていた。

 だが筆者の知るところでは、様々な理由で地方ではコンタクト・センターに必要な要員が集められなくなっている。筆者はトランスコスモスが東京にセンターを開設した理由は、顧客の要望と言うよりは自社の事情であると見ている。もちろん、トランスコスモスはそうは言っていない。

 日経新聞のニュース記事によると、トランスコスモスは多摩市への進出に当たって、クライアントがセンターにおいて隣席でオペレーターに指示・指導したいと考えているそうだ。東京都心からであれば多摩市は日帰り圏内。十分可能だろう。

 1990年代から米国のコンタクト・センターを100カ所以上視察してきた筆者の経験をベースに考えると、もし本当にクライアントが隣でオペレーターに指示・指導したいと考えているとしたら、それは単にクライアント側が知らないか、トランスコスモス側に何らかの誤認識がある。

 コンタクト・センター向けの品質管理システムがある。例えば、ウィットネスシステムズが販売する「eQuality」のような製品だ。この製品を使うと、コンタクト・センターにおける業務活動の記録が簡単に作れる。エージェントの対話記録、対話の際に使った端末装置の操作記録などだ。これらの記録はサーバー側に保存するので、遠隔地からでも参照できる。通話についても隣席と同じように遠隔からその場でモニタリングすることも技術的には可能だ。

 さらに最近の品質管理システムは、エージェントやスーパーバイザー向けの教育訓練プログラムの作成、適用、進捗の管理も支援してくれる。IP化の進展で、テレビ会議を容易に開催できるようにもなっている。

 これらを組み合わせて使えば、クライアントは委託先のコンタクト・センターにわざわざ出向く必要などなくなってしまう。つまり、遠隔地でも十分「近しい指導」は可能である。このアイデアは以前米国でウィットネスシステムズのセールス・ディレクターから聞いた内容から着想を得た。

 だからこそ、トランスコスモスが多摩市にセンターを開設した理由が“不思議”なのである。

 次回も引き続き、日本型エージェンシーと米国型エージェンシーの違いを交えつつ、コンタクト・センターで一般的な人材派遣という形態の問題点や誘致の問題を取り上げる。