小野 和俊
株式会社アプレッソ 代表取締役副社長 CTO

 「Web 2.0」という言葉はコンシュマー系のWebのサービスで使われるものとして定着しましたが,1,2年程前から「Web 2.0 for Enterprise」「Enterprise 2.0」などという言葉が現れ始め,Web 2.0がエンタープライズに何をもたらすのかが注目されてきています。

 筆者の本業はエンタープライズ向けのパッケージ製品を開発することですが,一方で個人としてはブログや「Twitter」をはじめとしたWebの世界に没頭しており,いわばエンタープライズとWebの世界に半分ずつ身を置いている立場です。この立場から,今回のエントリでは「Web 2.0がエンタープライズをどのように変えていくのか」を考えていきたいと思います。

『What is Web 2.0』に沿って考えてみる

 Web 2.0という言葉が使われ始めたばかりのころ,それが何を意味するのかが明確に定義されておらず,ブログなどでも「私はWeb 2.0はこのようなものだと思う」というようなエントリが書かれ,定義が明確でないこと自体がWeb 2.0の特徴の一つである,という指摘を目にすることもありました。

 このような状況に対し,Tim O’Reilly氏はその論文『What is Web 2.0』においてWeb 2.0に明確な定義を与えました。それ以降,この論文にまとめられた内容に基づいてWeb 2.0が語られることが多くなりました。

 今回のエントリでは,『What is Web 2.0』の7つの項目のうち前半の4項目,「The Web as Platform」「Harnessing Collective Intelligence」「Data is the Next Intel Inside」「End of Software Release Cycle」のそれぞれに沿って,エンタープライズ・システムの世界は今後どのように変化していくのかを考えていきます。

 なお,『What is Web 2.0』で書かれている内容そのものについては,今回のエントリでは直接は触れません。日本語訳の「Web 2.0:次世代ソフトウェアのデザインパターンとビジネスモデル」などを参照してください。

■ The Web as Platform

 一昔前までのエンタープライズの世界での常識は,「社内の機密情報を外部のサービスに預けることはできない」というものでした。こうした常識は,確実に変わってきています。

 米Salesforce.com が日本に上陸したばかりのころ,企業情報システムに携わる人から,「あれはきっと流行らない。情報の保管や管理を,社外に任せるなんてリスクが大きすぎる」という話をよく耳にしたものです。当時,このような発言には確かにうなずけるものがありました。Salesforce.comで取り扱う情報には取引先の情報も含まれますし,商談ごとの取引金額なども含まれます。こうした情報が万が一漏洩してしまったら大変なことです。

 しかし,Salesforce.comは大きな成功を収めました。

 また,ここ1年ほどで,上場企業のような監査が厳しい会社も含めて,社員の行動予定を「Google Calendar」に登録して社内で共有しているという話をよく聞くようになりました。「Gmail」のスパム・フィルタ機能が優秀なので,会社で独自にスパム・フィルタを導入するのではなく,会社のメールを一度Gmailを経由して受信することで,Gmailをスパム・フィルタとして活用している人も増えてきています。

 さらに米Googleから「Google Apps」がリリースされ,メールやスケジュール管理,文書や表計算など,企業で取り扱う各種データを,Googleが提供するサービス上で管理できるようになっています。これらの情報も,以前は社外のサービスに任せることなど考えられないと言われていたものです。

 コンシュマー向けサービスの世界で起こった,パッケージ・ソフトからサービスへの移行の流れは,社内情報システムにおいても確実に進んでいます。