ウィプロ・テクノロジーズ 金融ソリューション プレジデント ギリッシュ・パランジブ氏
 「日本のシステム・インテグレータ(SIer)とは、ユーザー企業に対するアプローチが異なる」。インドのウィプロのIT事業部門であるウィプロ・テクノロジーズで金融ソリューションのプレジデントを務めるギリッシュ・パランジブ氏(経営執行委員会チェアマン兼務)はこう語り、グローバル展開の経験と新しい技術に熟知している強みを活かし、日本市場での開拓を推し進めるとした。

 アプリケーション開発やインフラ監視、製品設計などを手掛けている同部門は年平均35%で成長を続けており、直近の売上高は35億5000万ドル、社員7万8000人に達する。これからも30%超の成長を実現させ、2010年に売上高、社員数とも倍増させる計画を持つ。社内にこれだけの技術者を抱えている日本のITベンダーやITサービス会社は存在しない。最大手の富士通のSEはグループ会社を含めた連結で2万人程度(このほかパートナー企業3万人)なので、ウィプロの規模が分かるだろう。

 ところが、日本のITサービス会社の中には、インドのIT企業をコスト削減を図るための下請け的な位置付けにしようとする。パランジブ氏は「協力はするが、彼らの下請けにはならない」ときっぱりと語る。

 続けて「日本のSIerには課題がある」と指摘する。「顧客と長い関係を築き、顧客を囲い込んでいるが、それが顧客のイノベーションを妨げている」というのだ。その最たるものが、グローバルスタンダードの導入やパッケージソフトの活用になる。「エンタープライズ系は、日本のSIerが製品をカスタマイズして導入を支援してきた。しかし、古いバージョンが多く、なかなかアップグレードされないことにユーザーは困っている。SIerはアップグレードしないし、日本の技術者はショート(不足)している。若い人も勉強しない」(日本法人ウィプロ・ジャパンのアリイ・ヒロシ社長)。一方、海外企業は最新バージョンを導入し、ビジネスプロセスの改革などに活用しているというのだ。

グローバル展開力と技術力を武器に

 そこに、ウィプロのビジネスチャンスがあるという。「確かにSIerと日本ユーザーは密接な関係にある。それでも時間はかかるだろうが、それをじっくりはがしていければ、チャンスは出てくる」(パランジブ氏)。ウィプロがこれまで蓄積してきたグローバル展開力は、日本企業が世界に進出する際に役立つ。「日本のSIerにグローバルな視点での知識はあるのか。欧米市場はどんな状況にあるのかを理解しているかだ」(同)。

 加えて、新しい技術力の習得にも差があるとする。「組込み技術では多くの実績を持っているし、ERP(統合基幹業務システム)などパッケージソフトでも高い技術力を誇る」(パランジブ氏)そうだ。独SAPや米オラクル、米マイクロソフト、米EMCなど多くの欧米ITベンダーのソフト開発に協力している。ソースコードまで理解しているので、その技術を駆使したパッケージ導入が可能になるという。

 品質面では、米カーネギーメロン大学が開発したソフト開発組織の能力を評価するCMM(能力成熟度モデル)レベル5やシックスナイン(99.9999%)という信頼性を実現させたり、トヨタの生産革新方式リーンを活用したり、CQO(最高品質責任者)がプロジェクトを厳しく評価・検証したりしている。ここから得たデータはユーザーにも公開する。

 日本市場ではまず、特定のユーザーとIT活用に関する目標を設定し、それを成功させる。「そうすれば、成功したユーザーの口コミで評価が広がる。いわばユーザーが大使になってくれる」(パランジブ氏)。ITサービスはブランドと評判が重要だからだ。結果、日本での売り上げは着実に伸びており、06年は約1億ドルに達したという。年間約150万ドルを投入し、インド技術者らに日本語の習得や日本の商習慣などを教育し、日本でのビジネス拡大を図り、3年後に2億ドルを目指すとする。

 アリイ・ヒロシ氏は「日本のユーザーはだんだん当社の技術力を分かってくれてきている。インド企業は下請け、サブというイメージだったが、違う目で見みてくれ始めている」とし、ユーザーと直接契約するのは基本だとする。日本市場で組込みソフト開発をいち早く立ち上げるが、このほか製品の研究開発、テスト、アプリケーション開発まで広がっていくことを期待している。