知人のブログに、ペリカン便に対するクレームを書いたエントリがあった。ペリカン便が、アマゾン・ドット・コムで購入した商品を誤配したという。そのブログにはほかにも、佐川急便による誤配について、その一部始終が書かれていた。その結果として、ペリカン便と佐川急便というブランドに悪いイメージを抱いたという。筆者は本人を知っており、決して無茶な要求をするようないわゆる「クレーマー」ではない。

 このブログには、企業は消費者が抱くブランド・イメージをどうマネージすべきか、それに基づきサービス戦略をどう舵取りすべきかについて、いくつもの示唆が盛り込まれている。

アマゾンとペリカン便

 テレビのニュース報道で、「日本郵政が日本通運と宅配便事業を統合」という話題が取り上げられていた。日本通運のペリカン便と日本郵政(日本郵便)のゆうパックのどちらも、ヤマト運輸や佐川急便に単独では対抗できなくなっているのがその背景――ニュース解説の主旨はこうである。

 このようなニュースや解説は重要だ。だが、受注した商品の配送を特定の宅配業者に依存している通信販売会社や個人事業主には、そんなことよりももっと知るべきテーマがある。

 それは、先に紹介したブログで書かれていたようなミスが、宅配の現場でどれだけ頻繁に発生しているかということだ。もし特定の宅配業者がミスを頻繁に引き起きているとしたら、その宅配業者を使っている企業は、顧客を失う危険性がある。

 もちろん、「自社のサービス」の範囲を、どこからどこまでかと考えるかは、人により意見が異なるだろう。ただ、商品が手元に届くまでが分離できない「1トランザクション」だとすれば、企業にとっては宅配業者の対応も自社サービスの一環ととらえるべきと筆者は考える。

 筆者はどうしてもアマゾンでしか購入できないものを除き、なるべく同サイト以外で購入している。理由は、私も冒頭のブログに書かれてあるのと似た体験をしたからだ。顧客として極めて不愉快な体験なのだ。この体験からすると、ペリカン便による配送サービスはアマゾンの一部と言わざるを得ない。アマゾンは日本での創業の際、物流業務を日本通運に委託した。これはパッキングから顧客に商品を届けるまでというサービスにおいて顧客に影響を与えやすい部分を日本通運に委ねたことを意味する。

 アマゾンのWebサイトとその仕組みは出色だ。書籍の検索の容易さ、注文のし易さに至るまで、十分に考察され作られている。そう評価している筆者でさえも、今ではアマゾンをあまり使わない。ペリカン便がアマゾンの顧客によくない印象を抱かせると、「ペリカン便離れ」どころではなく、「アマゾン離れ」を引き起こす危険性がある。

宅配便ブランドの相違

 筆者は極端な「ヤマト運輸びいき」だ。その発端は、かつてコンサルティングを手掛けていたある通信販売会社での経験である。

 その会社にはヤマト運輸、佐川急便、それに当時の郵政省によるゆうパックという3つの宅配業者が出入りしていた。ある日、筆者は仕事場で使っていたパソコンを自宅へ送る必要が生じた。その時、親身に相談に乗ってくれて、使っていたパソコンを安全に運んでくれたのがヤマト運輸の宅配便ドライバーだった。

 ヤマト運輸による親身な対応は、別の場所でも体験した。神奈川県三浦市に在住していたときのことだ。「仕事の必要上、毎週日曜日の夕刻に荷物を取りに来てほしい」と頼んだ。宅配便ドライバーが代わっても、私の依頼は滞りなく遂行され続けた。

 地域密着という社の方針があるのだろうか、ヤマト運輸の宅配便ドライバーは、いつの間にか庭先を回って部屋の窓辺に荷物を受け取りに来るようになっていた。筆者が玄関とは反対の庭先窓辺に荷物を置いていることを知ったからだろう。

 街をブラブラ歩いていて、ヤマト運輸の宅配便専用車と行き会うと、顔見知りになっていたドライバーは笑顔を返してくるようになった。いつしか、そのドライバーに頼んで、通販でモノを買うようにもなった。つまり、筆者はヤマト運輸の宅配便ドライバーとリレーションを醸成したのだ。

 一方、佐川運輸もペリカン便も、リレーションを醸成できるほどに頻繁に接触する機会はなかった。

 私の体験を振り返ると、主要な宅配業者に対するブランド・イメージはかなり違う。特に通販事業者にとっては、宅配業者のブランド・イメージは検討すべき重要項目ではないだろうか。

CEMに欠かせないショッピング体験

 米国では2~3年前から、CEM(Customer Experience Management)という言葉が言われるようになった。顧客はそのブランドについて良い体験を重ねるとブランド・ロイヤリティーが向上する。その原則に基づき、サービス戦略を練るというという考え方だ。筆者とヤマト運輸のケースは、CEMの好例と言える。

 CEMでは顧客サービスの品質を継続的に改良するという考え方が盛り込まれている。CEMを推進する上では、顧客対応プロセスを詳細に考案し、そのプロセスが正しく実行されているか、顧客の反応はどうか、そのプロセスに変更が必要か、といったことを常にモニタリングすることが必要である。

 こと品質維持についてはモノづくりよりもサービスの方が難しい、というのが筆者の考えだ。サービスは顧客、時間、曜日、季節、社会の流れなどに応じて、オン・デマンドで提供の仕方を変える必要があるからだ。なにしろ同じ顧客でも、時と場合によって提供すべきサービスの内容を変えることが求められる。

 CEMを考えるための手法は2つある。1つは「ミステリー・ショッピング」を定常的に実施することだ。ミステリー・ショッピングとは、自社員または関係者であることを隠し、「普通の顧客」として自社のサービスを体験し、問題点を洗い出すことを指す。マーケティングの大家、コトラーは「ゴースト・ショッピング」という言葉を使っているが、内容としては同じである。

 もう1つは、自分自身の購買体験や利用体験を客観的に記録してみることだ。どんな企業人でも、必ず他の商品やサービスを購入し利用する側に立つからだ。自らの顧客体験は、ミステリー・ショッピングの一面で、とても貴重なものだ。

追記:サービスを専門的に解説しようとすると私はいつも浅井慶三郎氏が書いた「サービスとマーケティング-パートナーシップマーケティングへの展望」(同文舘出版)を参照する。サービスとマーケティングの両面が理解できる良書なので、機会があればご覧いただきたい。