少し前にIHIが大幅な業績悪化を発表したが、ITサービス業界にとって、まさにこれは他山の石だ。というか、近い将来に起こり得るリスクを暗示する。撲滅したはずの赤字プロジェクトはいつでも発生しうるし、ITサービス会社も対応を迫られている会計規準の変更後に問題が発生するとどうなるか、このケースはそれを端的に示している。

 IHIの発表によれば、2007年9月中間期に670億円の営業赤字になるだけでなく、さらに最大280億円の損失が加わる可能性があるという。旧社名は石川島播磨重工業。言うまでもなく重工業の名門企業だ。ただし、今回の業績悪化の主因はエネルギー・プラント事業。いわゆるプラント・エンジニアリングで巨額損失が発生した。

 プラント・エンジニアリングと言えば、1990年代後半に専業大手が巨額の損失を出し、企業存亡の危機に直面している。原因は、受注ほしさで安値受注した巨大プロジェクトが軒並み火を噴いたこと。おっ、どこかで聞いたぞ。そのため各社ともPMOを設置し、プロジェクトの採算性を見極め厳しく選別受注する体制を敷いた。これもどこかで聞いた。そう、エンジニアリング業界はITサービス業界の一歩先を歩く、先輩であり先生であった。

 IHIも以前、今回問題になったエネルギー・プラント事業でやはり巨額の赤字が発生、その後採算性を重視し、選別受注を進めてきたという。なのに再び大幅な赤字転落。その理由は報道などを見る限り、要員などリソースに見合わない無理な受注にあるようだ。売上を作りにいったのだろうか。

 さすがに今やITサービス会社では、リソースが十分に確保できないのに受注するという無茶はやらないから、「名門企業でこんなことが」と驚いてしまった。ただ教訓にすべきは、経営者が「赤字プロジェクトを抑え込めるようになった」と判断した後でも、巨額損失を生み出すプロジェクトが発生するということだ。「喉元過ぎれば・・・」というやつである。人的リソースを抱え込むITサービス会社の場合、こんな好況期ではなく景気が下り坂の時が危ない。

 ITサービス会社の場合、赤字プロジェクトを抑え込めるようなったのは、IT需要の拡大の賜物であると考えた方がよい。もちろん個々の企業の努力もあるが、これだけ仕事がある中では、“猿でもできる”選別受注をやっていれば不採算案件は発生しない。問題は景気が悪くなった時。よほど経営管理能力を磨いておかないと、技術者の稼働率を維持するために、「リスク管理ができるようになったから」などと妙な理屈を付けて、火中の栗を拾いかねない。

 実はこのIHIの事例には、ITサービス会社にとって恐い話が隠れている。「最大で280億円の追加損失が発生する可能性」には、工事進行基準での会計処理の話が絡む。進行基準と言えば、プロジェクトの進捗状況に合わせて売上や利益を“分散計上”するやり方。ITサービス会社が対応を迫られるのは2009年4月からになったようだが、それ以降は原則として、検収書をもらってから売上を計上する完成基準ではなく、この進行基準でSIプロジェクトなどの収益を計上しなくてはならない。

 さてIHIの追加損失の可能性だが、大規模プロジェクトで見込んだコストダウン効果に怪しいものがあり、その影響が最大で280億円とのこと。要は、総原価を過少に見積もった可能性があるわけだ。さらにこちらの業界は、プロジェクトの収益を既に進行基準で計上している。つまり前期から継続するプロジェクトは、前期の決算で誤った収益を計上した可能性があり、前期決算の訂正を迫られる場合もあるとのことだ。

 うーん、決算書の訂正とは厳しい。これは進行基準による会計処理の恐さ。ITサービス会社の会計処理に進行基準が適用される時には、日本版SOX法への対応も必要になっている。決算書が正しくなければ、もちろん日本版SOX法が求める「財務諸表に係る内部統制」も重大な欠陥ありである。2009年あたりはIT需要が再びダウントレンドになる恐れもある。「なんだ、他の業界も大したことないじゃないか」なんて言ってないで、ITサービス会社は経営管理能力の強化にいそしんだ方がよいだろう。