今後このコーナーにて、「CRMアウトルック」と称したシリーズをお届けしたい。CRMとコンタクト・センターに関する報道やニュースリリースをピックアップし、筆者の解釈を加えたものである。話題が多岐にわたるため散漫な文になるかもしれないが、読者の有益な情報源となるよう努めるつもりである。

 (紹介したネット記事については、筆者の「はてな」公開ブックマークからも参照できます。URLはhttp://b.hatena.ne.jp/tada_masayuki/です)

CRMベンダーはSaaSで中堅市場を攻める

 米国ではこの数年間で、CRMベンダーの合併・連携が進行している。M2M社がオニックス社を,オラクル社がシーベル社を,CDC社がピボタル社を,ライトナウ・テクノロジー社がSalesnet社をそれぞれ買収し合併した。いずれも製品やサービスを補完することが目的だとしている。

 また、そうしたCRMベンダーの多くは、ホスト型CRM――SaaS形式のCRMアプリケーションを提供している。そして狙っているのは、中堅・中小企業ユーザーの市場(small and medium-sized business market)である。背景情報として各社のホワイトペーパーで引用されているのは、In-Stat社の調査結果である。

 『Another market research company, In-Stat, believes that strong growth in hosted VoIP will remain steady and will exceed 3 million seats in service by 2010. There are currently about 400,000 seats in service in the U.S., the majority in the small and medium-sized market.』(In-Stat社の調査によれば、中堅・中小企業の市場におけるVoIPの席数(コンタクトセンターの席数)は、2010年には300 万席を超えると予想される。現在は40万席程度。)

 この調査が示しているのは、VoIPが拡がると,ホスト型CRMアプリケーションを利用するインフラ環境も拡大するということだ。

 ホスト型CRMアプリケーションの利点は、伝統的なクライアント/サーバー型CRMアプリケーションに比べて、導入期間が短いということだ。各ベンダーの資料を読むと、「数週間から数日の導入作業で使用可能となる」と強調してあった。中小企業に向けて訴求できるポイントを増やそうと腐心しているようだ。

CRMが現場を幸せにした後は…

 ITproでは日経コンピュータ誌の記事を再掲する形で「現場が幸せになるCRM」という連載が始まっている。「現場」とはCRMアプリのユーザーのことを指す。ただ現場の先にいる顧客のことも忘れてはならない。CRMは外部(顧客)との接点となる唯一無二とも言えるアプリケーションだからだ。

 次の記事「業務によりフィットさせる」には,国内の統合型CRMパッケージ・ベンダーの一覧が掲載されている。何かと便利に使えそうなリストだ。

選択肢が広がるか、ライトナウの登場

 7 月31日付けで、ITproに米ライトナウ・テクノロジーのCEO、 グレッグ・ジアンフォルテ氏へのインタビュー記事が掲載された。同社はCRMソフト「RightNow」の開発・販売元で、最近ではSaaS型でも提供している。先に述べたホスト型CRMアプリケーションの代表例と言える。

 米国ではRightNowは良い評判を確立している。ユーザー企業から感想を聞くと、ユーザー・サポートが良いとのことだ。製品およびサポート・サービスの比較記事を複数参照したが、RightNowを批判するような話題は見つからなかった。

 しばらくして伊藤忠テクノソリューションズが「RightNow」のバージョン8を10月1日より販売開始すると発表した。

 日本市場でも米国市場と同様の評判を獲得して,顧客層が拡大することを期待したい。セールスフォース・ドットコムとの競争を繰り広げるほどに。そうなることで、ユーザー企業に有力な選択肢が増えるという望ましい姿が出来上がる。

コンタクト・センターの「惨状」

 「コールセンター大手のトランスコスモス、都内に大型新拠点」というニュースリリースがあった。そこには次の一文があった。

 『従来はコストが安い地方での立地を優先してきたが、電話による顧客応対業務が複雑化しているのに伴い、利用企業の間では都市部のセンターに出向いてオペレーターに指示・指導したいとの要望が強まっている。』

 トランスコスモスは東京都多摩市に880席のコンタクト・センターを開設した。その背景事情をこのように記していたのである。だが、本当の事情は違うのではないか、と筆者は思った。

 一つは、地方へのコンタクト・センター誘致に批判が出始めていることだ。中央公論誌10月号の特集「『国家の品質』が危うい」で佐野眞一氏と金子勝氏の対談が掲載されている。佐野氏は「IT版女工哀史」と表現し、地方のコンタクト・センターの実情を取り上げていた。方言や訛りを矯正されている現場に遭遇した佐野氏は「地方固有の言葉を失わせるというのは、中央から地方への一種の侵害だ」と述べているが、筆者もその通りだと思う。農協系の新聞にも、離島へのコンタクト・センター誘致を批判する論説が載っていた。

 もう一つは、コンタクト・センターには必ずといっていいほどついて回る、離職頻度の高さだ。人口が少ない地方では、離職した分の人員を補充できる余裕はあまりない。

 つまり、地方ではなかなかコンタクト・センターに必要な要員が集められなくなっているのだ。このニュースリリースの裏側には、このような「語られない事情」があると筆者は見ている。

 中央公論誌に堺屋太一氏が寄稿した「日本を劣化させた政治の『ベルサイユ化』」には、「知価創造人材の誘致競争」がこれからの地域間競争だと論ぜられている。このニュースリリースの裏側にある事情を象徴していると筆者は思った。

■変更履歴
 記事中「選択肢が広がるか、ライトナウの登場」の項で、当初「RightNowの国内販売代理店は以前、三井情報開発(現在の三井情報)だった」と記載していましたが、これについて三井情報から訂正の依頼がありました。販売代理店だったのは三井情報開発ではなく、三井情報のもう一つの母体だったネクストコムとのことです。また三井情報からは「販売代理店の一つではなく、国内の総販売代理店だった。今回米ライトナウが日本法人を立ち上げたことから、三井情報は総販売代理店ではなく販売代理店の1社という位置づけになった」との申し入れがあり、本文中の該当個所を削除しました。以上についてお詫びして訂正いたします。また当初記事中で「日本語のRightNowのWebページはここにある。だが一部はリンクが消えている。三井情報はライトナウの販売とサポートを止めてしまうのだろうか」と言及していましたが、「伊藤忠テクノソリューションズなどの他社も販売代理店契約を結び、現在は三井情報も含め5社がRightNowの販売代理店となっている。現時点で当社はRightNowの取り扱いを止める計画はない」との申し入れがありました。 本文は修正済みです。 [2007/10/12 13:50]