Windows Vistaは,マニア層の一部に評判が悪い。主な主張は「遅くて重い」「互換性が低い」というものだ。確かに,Windows Vistaが動作するための最低要件は厳しい。5年前のOSであるWindows XPにとっては十分なスペックであっても,Windows Vistaには十分ではない。

 確かに,十分なリソースがあればWindows Vistaは決して遅くない。それどころか,Windows XPに比べて,かなり高速に動作する。しかし,このことは「新しいPCを買うまでVistaを買うな」と言っているに等しい。少なくとも「古いPCでは遅くて重い」ことは確かだ。互換性についての問題も確かにある。互換性ツールキットもあるが,使いこなすのは結構難しい。UACやネットワーク管理画面など,操作面での戸惑いも大きいだろう。

 ところが,こうしたハードルにもかかわらず,Windows Vistaの導入を決めた企業は結構多い。9月12日から3日間の日程で実施した「Windows Vista コンピュータの保守およびトラブルシューティング」はほぼ満席となった。この日程は,マイクロソフトのWebサイトで公開されたスケジュールとしては日本で最初の実施である。これほど早く立ち上がったクライアントOSは,Windows 95以来ではないだろうか。

 Windows 95は,日本においては,ネットワーク機能を標準搭載した最初のWindowsである。そのため,企業ユーザーの立ち上がりは非常に早かった。一方Windows 98の立ち上がりはWindows 95よりは緩やかだった。クライアントPCの寿命は,3年から5年とされる。Windows 98はWindows 95からの乗り換えには少し早かったのだろうか。また,Windows 2000(当時はWindows NT 5.0と仮に呼ばれていた)の登場が目前だったせいもあるかもしれない。

 Windows NT Workstation 4.0もあまりぱっとしなかった。サーバーの方は爆発的に売れたが,Windows 3.1やWindows 95との互換性が低いこと,プラグ&プレイが実装されていないためノートPCで使いにくかったことが原因だと思われる。もちろんWindows NT 4.0が発表された1996年は,Windows 95が発売されてすぐだったため,どちらを採用するか迷った面もあるだろう。

 Windows 2000 Professionalは,Active Directoryクライアントとして,ある程度早く市場が立ち上がった。Windows 2000では,Windows 9xからの移行パスが整備され「Windows 95/98の後継はWindows 2000である」とマイクロソフトが公式に主張したためだ。その結果,多くの企業ユーザーはWindows 95に替えて,Windows 2000 ProfessionalをクライアントOSに採用することとなった。

 一方,Windows XPの立ち上がりは悪かった。Windows XPが2001年の発表であり,Windows 2000から間もなかったことが原因か。実際,Windows XPの講習会は,2004年あたりから増え始め,2005年,2006年,そして2007年もはかなり多くの方に受講していただいている。Windows 2000と同時に導入したPCの入れ替え時期が来たのだろう。

 そして,Windows Vistaである。初期にWindows XPを導入した企業はPCの入れ替え時期になっているはずである。しかし,前述の通りWindows XPの立ち上がりは緩やかだったので,Vistaを導入する最初の企業はWindows 2000からの移行だと予想していた。ところが,実際にはXPからの移行もかなり多いようだ。理由は分からない。単純にWindows Vistaの機能が評価されたのだろうか。

 そうだとしたら,マイクロソフトは喜ぶだろう。しかし,個人的にはVistaの機能がXPに比べて極端に勝るとは思えない。確かにUACの機能は強力だし,BitLockerドライブ暗号化機能も興味深い。しかし,PCの入れ替えをするほどとは思えない。それに,Vistaが本領を発揮するのは,サーバーがWindows Server 2008になってからだ。というわけで,Windows Vistaの教育コースがこれほど盛況な理由はよく分からないのである。