これまで多くの海外オフショア・アウトソーシングプロジェクトにおいて,有能な外国人技術者を日本に招き,開発や日本(語)対応プロセスを習得して仕事をしてもらいました。そして,期待通りの成果や,時には期待値を越える実績を達成したことがあります。

 しかし,次の拡大ステップに進もうとした時,育成した人材が離職することになり,ひどく困ったことがありました。そこで急きょ「2006年12月21日寄稿 外国人プロジェクトリーダが突然辞めると言い出した」に寄稿したような対応をしました。

 その後も苦い失敗と大きな成果の両方を経験し,その結果,海外市場の変化や外国人技術者の離職など,海外アウトソーシングでは“すべてが変化する”ことを認め,効果的に対応するために,下記の方針を決めました。

1.スタート(Entry)とエンド(Exit)を計画に組み込む
2.変化を前提に短期戦力として活用する
3.最適なプロセス,人材選定,組織構築によりパフォーマンスを向上させる
4.形式知と暗黙知を考慮したナレッジ蓄積と伝承を行う

 この方針は,変化しつつある日本市場へも適用できるものと考えます。

 今回は,予め技術者離職も想定して,人材選定から目標達成に至るまでの計画を作り,離職が発生しても計画に沿ったアクションによって,次の人材育成と活用につなぐことができた事例をお話しします。

判断基準を策定し最適な人材を選ぶ

 過去のオフショア開発では,海外企業側よりプロジェクト管理者やオンサイト技術者を推薦してもらい,その通りにやっていました。こうすると最初の段階はよいのですが,それらの人材が当プロジェクト終了後に異動したり,途中で離職したりする事態が発生しました。その時は次の候補者を選んでもらう訳ですが,どうも期待したような成果が出せず,人選も適切ではないと思われるケースが多々ありました。

 あるプロジェクトでは,最終オンサイトテストの段階になったとき,海外側責任者から,開発チームの技術者N氏が技術スキルが高いのでオンサイト対応は大丈夫とのお墨付きを得ました。それに従って,日本でオンサイト対応してもらったところ,確かに技術スキルは高く不具合対策をうまく進めるのですが,報告書の内容がよくわからない状況が発生しました。文章がわかりにくいので,日本側担当者と毎日2時間,2週間にわたって確認打合せを行い,日本側の工数がかかりすぎて困りました。技術スキル中心の人材選定をやったために失敗したのだと思います。選定プロセスを海外側に依存していたため,日本側からは人材の選定や管理のポイントがよくわからなかったのも問題でした。

 そこで,技術/ドメインやプロジェクト経験等の後天的素養の判断基準だけでなく,人材の外向/内向,思考型/情緒型といった先天的要素を判断基準に加えました。後天的素養は,日常の業務の中で評価でき,教育によって向上させることができます。海外企業では多くの場合,この後天的部分を中心に人材の判断をしています。

 これに対し先天的要素は,何となく感じてはいるものの実際にはわかりにくいものです。そこで,これまでの企業での人事管理,海外人材対応経験をベースに,性格分析等を加えた判断基準を作ることにしたのです。

 先天性要素は,誕生した時から一生にわたって基本的に変わらないものであり,態度や行動パターンに表れます。筆者は,この先天的な性格パターンを知るため,海外の管理者や技術者と必ず個人面接をおこない,その中で幾つかの簡単な質問をして,その対応の中で表れた言動や態度で判断することにしています。