おかげさまでサイボウズ製グループウエアは,少しずつ売れていきました。機能の数がずいぶん少ないシンプルなグループウエアです。アクセス権は設定できません。利用者をグループ分けすることもできません。しかしながら,機能が少ない分,サクサク動作します。購入したお客様からは,「必要最小限の機能だけど,うちの部なら十分だよ」といった評価をいただき,私たちは自信を深めていました。

 さて,ここで問題が発生しました。次のバージョンを開発していきたいのですが,どのような機能を実装すればよいか見当がつかないのです。私たちのオフィスがあるのは愛媛県松山市。お客様にヒアリングをしに行くのは大変です。また,私たち自身が欲しい機能を考えても,いい案が出ません。と言うのは,当時のサイボウズは3名だけ。一般的に見れば,グループウエアは使わなくても済む人数です。「施設予約」のアプリケーションを作って販売しているものの,2DKのマンションで働いている私たちには,予約する施設などありません。これではお客様の気持ちに立ったアイデアは出てきません。

 当時から,お客様サポートは,ホームページの問い合わせフォームから受け付けた質問に対し,メールで答える形をとっていました。今のように電話を使うことはほとんどありません。問い合わせの多くは「こんな機能はありますか?」というものだったのですが,機能を絞ったグループウエアですから,そのほとんどに「できません」と回答していました。

Webへの要望をもとに新バージョンを開発

 売る役目を務めていた私としては,苦労してホームページに集客してきたのに,機能不足で買ってもらえないのは苦痛で仕方がありません。そこで,いただいた問い合わせを集計して,次のバージョンに活かすことを提案しました。

 社内でWebデータベース(後の「サイボウズ デヂエ」)を置き,お客様からの製品に対する要望をまとめてみました。集計してみると,たいへん面白いことに気づきました。お客様からの要望は,予想以上に偏っていたのです。つまり,要望のいくつかを実装するだけで,多くのお客様に喜んでもらえることがわかりました。そして,要望を出してきてくれたお客様に,こちらから「どうしてその機能が欲しいのか,もっと詳しく教えて欲しい」というメールを送ったりもしました。お客様はたいへん驚いたことでしょうが,快く答えてくださいました。

 それらの意見を元に,新バージョンを開発しました。開発者は依然として一人だけですから,たくさんの機能を追加することはできません。しかしながら,私たちのような小さい規模の会社でも,たくさんのお客様の「生の声」を集めることができました。こうして機能を絞ってバージョンアップした「サイボウズ Office 2」は,さらにお客様からの支持を集め,販売数を伸ばしていきました。

 よく「インターネットの特徴は,『双方向性』だ」と言われます。しかし,今のインターネットは,まだまだ一方向ではないでしょうか。みなさんは,GoogleやAmazonと対話したことがありますか? インターネットは,企業が機械的な対応をするために使うのではなく,企業と顧客が心を通わせるような使い方をするべきものだと思っています。