民主党が参議院に年金保険料を年金支給以外に使わない「年金流用禁止法案」を提出した。9月14日のことだ。この法案提出に関連して,日経新聞は,次のように官房長官の談話を報じた。
 
『与謝野馨官房長官は14日の記者会見で,民主党が参議院に提出した年金保険料流用禁止法案について「(保険料で)つまらない施設をつくったりするのは一切やめた方がよい。正しい指摘だ」と評価した。ただ,法案が事務費への充当も禁じていることに関しては「(保険料を)集めるには相当な事務費がかかる。事務費を否定するわけにはいかない」と語った。』

国民年金法第85条を読む

 ご存じの方も多いだろうが,今一度整理の意味も含めてここで記しておきたい。国民年金法という法律がある。これは国民年金や厚生年金など政府が管掌する年金制度の根幹となる法律だ。その第85条には,「国庫負担」について書かれている。

『国庫は,毎年度,国民年金事業に要する費用(次項に規定する費用を除く。以下同じ。)に充てるため,次に掲げる額を負担する。』(計算方法など詳細は省略する)

 この法律の条文を読むと,「国庫から国民年金事業に費用の一部を支出する(負担する)」ものだと理解できる。

 つまり,国民年金事業全体は,加入者が負担する保険料に国庫負担を足しているという構図である。年金事業は保険料によって事業を運営するのが原則で,そこに国庫から国民年金法で定めた算定方式で負担金を算出して,毎年拠出(支出)するというのである。

国民年金事業の費用構造

 このような概略は,社会保険庁のこのWebページで公開されている。ここで「図で見る予算の概要」の平成19年度を参照すると,次のことが把握できる。

 まず,年金特別会計には6種類の勘定が存在する。基礎年金勘定,国民年金勘定,厚生年金勘定,福祉年金勘定,健康勘定,業務勘定である。

 この予算の概要説明を見ると,次のようなことが分かる。

 年金特別会計の業務勘定では,次の費用が発生するので措置されているとされる。人件費1402億円,事務費1226億円,国民年金等事務取扱市町村交付金337億円,年金相談等1033億円,独立行政法人福祉医療機構運営費交付金56億円,検診費520億円,レセプト点検等249億円,特別保健福祉事業・児童手当勘定への繰入127億円の総額4957億円である。

 この費用に見合う歳入も同額で,そのうちの1627億円が一般会計からの受け入れ(つまり国庫負担)となっている。差し引き3330億円が保険料収入や積立金の取り崩しなどでまかなわれているという計算が成り立つ。

システム開発費の出所は?

 いくつかの資料を読み継いでいると,システム開発費の出所は「事務費」と考えるのが妥当だ。開示されている費目が大まかすぎて詳細にまではたどり着けていないので,私は今のところこのような認識である。

 ところが,厚生労働省・社会保険庁が発注を開始した新情報通信システムの開発費は,総額で1150億円と見込まれている。単年度の事務費が1226億円である。システムを複数年に分割して発注すると考えると,この1150億円という負担の程度は金額として妥当とも思える。だが,本当にそうだろうか。

 日本年金機構は2010年に発足することになっている。この発足時期に新情報通信システムの開発を完了させるとすると,複数年とは3年ということになる。つまり1150億円を3年で負担するという形だ。単純計算で年384億円だ。既発注分もあるから実際には4~5年で負担するとすると,5年で年平均250億円となる。

 384億円は,2007年の事務費からするとおよそ30%ということになる。個人的な印象では,いくら巨大な情報通信システムの開発費だからと言っても,軽々と支出できる額ではない。

 しかも,厚労省・社会保険庁は「社会保険オンラインシステムの見直しについて」という資料の中で,「残債」とする未払いの「過去に行ったソフトウェアの開発」費が1500億円あると説明している。この未払い開発費は,単純計算すると年間300億円である。事務費からこれも支出されるということだとすれば,事務費の半分はシステム開発費関連ということになる。企業の経常経費に占める情報通信システム関連の費用は,どんなに多い場合でも5%前後ではないか。

 これらのシステム開発費は間違いなく納入した保険料でまかなわれる。ITに関わっている人間としても,個人としても,これに無関心ではいられない。