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上手な「通訳」の利用法,教えます

2007/09/07

 秋の学会,カンファレンスシーズンの到来です。そこで今回は上手な通訳の使い方についてアドバイスしますね。

 私は会議通訳として,通常は通訳業務を依頼される立場にあるわけですが,時には顧客の代理人としてまた通訳チームリーダーとして通訳を手配することもあります。発注する側とされる側の両方の立場から,これまでの経験で気が付いたポイントをご紹介します。

(1)タイムマネージメント
 必須情報に,会議開始時刻と場所があります。これさえあれば,何とか現地で落ち合って,会議を始めることができます。願わくば,会議終了予定時刻,会議延長の可能性の有無も教えて頂けると,通訳は託児所に預けた子供の迎え,ベビーシッターのアレンジ,夕食の手配など,夕方・夜のスケジュールを立てることができます。午前と午後に別な仕事が入っている場合にも会議の終了時刻は重要です。

(2)連絡先
 通訳斡旋会社やエージェントによる通訳手配の場合,顧客(発注者)と会議通訳が直接やり取りすることがないために,万が一の際,連絡が取れないことがあります。緊急連絡先として,当事者同士の連絡方法を確認しておくことが重要です。取引相手のオフィスで打合せが行われる場合,相手企業の代表番号のみならず,打合せのホスト役(担当者)の名前,直通電話番号も併せて確認しておきましょう。受付で必要になることが多いです。

 米国企業(ベンダー)と日本企業(顧客)の打ち合わせの場合,ベンダー米国本社,ベンダー日本支社,顧客米国支社,顧客日本本社,通訳斡旋会社,通訳斡旋会社の米国支社または下請けの米国現地旅行代理店,会議通訳と,関係者が数社もかかわることもあるのです。伝達ゲームの途中でコミュニケーションに滞りが出ないようにしたいものです。

最近は,ふだん日本で使っている携帯電話も国際ローミングで使えるようになりましたが,逆に米国国内からは「国際通話」になってしまいます。(私のように)携帯電話からの国際通話を契約していないと,受信はできても発信はできないということにも注意が必要です。

(3)会議資料と事前打合せ
 先週,日本で行われた学会後の反省会で,発表者にとって通訳が要求する事前打合せはとても負担になるという教訓を得ました。通訳としては発表内容について確認したい事項や用語がある,一方,発表者は既に抄録も発表資料も提供したのだから,それ以上の打合せは負担になる。両者の言い分は痛いほどよくわかります。

 通訳の立場から言うと,抄録や要約はあくまでも発表のポイントし書かれておらず,準備資料としては不十分です。パワーポイント資料は,効果的に作成されていれば,それから発表内容を推し量ることができますが,残念ながら日本人が作成するPPT資料は,予習資料としては不十分なことが多いです。図表や写真ばかりの発表資料もあり,そのような場合は完全にお手上げです。

 通訳はその分野の専門家ではありません。商談でも話の経緯や背景を知らないことがほとんどです。でも通訳に話が見えていないと,正確な通訳をしてもらえないどころか,話が全く通じなくなってしまうことすらあるのです。通訳が会議の足を引っ張ることのないようにご協力ください。

(4)発表の速度
 読み原稿がある場合には,必ずご提供ください。英語でも日本語でも,書き言葉と話し言葉は異なります。文語調の読み原稿を立て板に水の如く読まれたのでは,どんなに優秀な通訳でも,ぶっつけ本番で付いて行くことはできません。

 前述の学会は,『歴史とGIS』というテーマで,歴史学者,文化人類学者が集まった会議でした。そこへ,データセキュリティについて,マイクロソフト社研究開発センターに勤めるインド人が発表したのです。学会参加者はITの門外漢ばかり。IPSecだのSSLだの言ってもIt's all Greek to them! しかも,インド訛りの英語を超早口でまくし立てるという有様でした。

 発表は,聴衆に理解してもらえて始めて意義が出ます。いくら立派な発表をしても,相手に通じなければ何もなりません。聴衆が理解できる言葉で,聴衆が聞き取れるスピードで話すこと。これは発表者たるものの心得です。特にそこに通訳が入る場合,通訳は内容を把握し,発表者の言葉のスタイル(フォーマルかインフォーマルか等),比喩,ジョーク,感情や雰囲気などを即座に判断し,それらをできる限り表現しようとするのです。しかも別な言語で。

 これだけいくつもの処理工程が入るのですから,その分の処理時間を通訳に与えてあげてください。そう,あまり早口にならないで,というお願いです。相手に含み聞かせるようなテンポがベストです。

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著者プロフィール

臨床医学を目指し、単身アメリカへ渡米。85年にカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)小児精神科看護修士課程を卒業するも、運命の糸に導かれ、会議通訳の道へ。政府間交渉や官公庁をはじめ、主にIT業界において20年にわたり会議通訳を務める。「自然で専門的レベルが高い」通訳にはファンも多い。2003年にグレースコンサルティング設立。業務/経営コンサルティングへ守備範囲を広げる。名古屋大学大学院地球科学学科非常勤講師。

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