なぜITベンダーは最近、コンサルティングに力を入れるのか。これについては、いろんな観点から解説できるが、企業間の取引の観点からは「ユーザー企業が本来払うべきお金を支払わないからだ」と言える。ユーザー企業はよく「ソリューション提案ができていない」とITベンダーに対して不満を述べる。では仮に、完璧なソリューション提案が出てきたら、システム開発を発注するかどうかは別にして、その提案自体に対価を払うだろうか。

 「なんで? そんなの営業活動の一環だろ」と思うユーザー企業が大多数だとしたら、ITベンダーはやはりコンサルの事業化・強化に力を入れなければならない。実際、SI商談などでITベンダー各社の提案に対して“提案料”を支払うユーザー企業はほんの一握り。RFPもろくすっぽ書けないくせに、SI料金を値切り倒すような企業に至っては、「我が社がITでいったい何をしたいのか、タダで教えてくれ」みたいなことを平気で言う。

 言うまでもなく、ITベンダーが本当の意味でのソリューション提案をやろうと思えば、ものすごくコストがかかる。ITに詳しくない経営者やユーザー部門の問題意識を聞き出し、システム提案に落とし込もうとすると、アカウント営業がその企業に張り付き、多忙を極める優秀なSEも全面協力してソリューションを検討しなければならない。これでSI案件を受注できればよいが、単なる“当て馬”だと目も当てられない。

 経営者やユーザー部門の要求を分析して、システム化計画書を作り、RFPを作るのは本来ならユーザー企業のCIOや情報システム部門の仕事だ。それが出来なくなったから、「ソリューション提案を出せ」とITベンダーに要求する。いわばCIOやシステム部門の仕事で一番付加価値の高い部分をアウトソーシングしている形だ。しかもSI案件を“エサ”に、複数のSIerを無料のアウトソーサーとして活用する。ある意味、見事な戦術だが、そうであるならば「まともなソリューション提案が出てこない」と文句を言うのは見当違いだろう。

 昔は、それでも良かった。システム部門がしっかりしており、SI案件も事務の合理化など分かりやすかった。ITベンダーはRFPを待てばよく、高品質のシステムを納期通りに作るのがソリューションだった。たまに難しい提案を求められる案件もあったが、SI料金をたっぷり出してもらえたから、提案コストはSI料金で吸収できた。ところが、今はSI料金が“適正水準”にまで下がってしまっているから、ソリューション提案のコストを吸収するノリシロはほとんど残されていない。

 そんなわけだから、ITベンダーはソリューション提案自体でお金の取れる仕組みを作らなければならない。それがコンサル事業の強化である。特に大事なのが、戦略系の経営コンサルや技術にフォーカスしたITコンサルではなくシステムコンサルティングだ。これは、ユーザー企業の経営者などの問題意識からシステムの課題を抽出し、システム化計画の策定までを支援する仕事だが、内容的にはソリューション提案やコンサル営業の究極形といえる。

 こうしたシステムコンサルでお金が取れるようになり、結果として立派なシステムが出来上がることになれば、ITベンダー、ユーザー企業ともハッピーである。しかし、システムコンサルでお金を取ったら最後、ソリューション提案に対するユーザー企業の見当違いの文句も正当なものになる。いい加減なコンサルがどんな悲惨な結末になるかは、これまでの山のような失敗事例を思い出せば明らかだ。