前回は,文書添削に必要なノウハウとして5つのテクニックを説明しました。

"文書が上手いと言わせる"5つのテクニック
(1)構造化を行う。
(2)事実と意見,推定は分ける。
(3)意見,推定と主張には根拠を。
(4)主語を明確化する。
(5)省略しない。

 また,その他の留意点として,以下も非常に重要な文書のポイントになります。

(1)結論が先,各論が後
(2)大事なことが先,そうでないものは後,どうでもよいことは書かない。
(3)(交渉録的要素が強い報告書や議事録などの場合) 「ペンディング項目を一覧化する」,「決定事項を一覧化する」,「いつまでに決着させるかを明確にする」

 さて,今回は前回の続きとして,藤井が書いた報告書について,添削のチェックポイントを私が坂本にアドバイスしたときのエピソードを紹介します。

添削するにはチェックポイントがある

芦屋:坂本,添削はどう,見せてくれる?元の藤井の報告書と,君が添削して書き換えた報告書を並べて見せてほしい。

坂本:・・・ええ・・・こんな感じですかね。


販社との打ち合わせ結果の報告について
藤井  

・先方より,当方が提示した処理画面の操作性が問題なので,見直してほしいとの要望があった。
・上記については,当方にて検討することで了承いただいた。
・また,先方から,社内の情報提供に使いたいので,弊社が提供するシステムの機能と画面イメージをメールで送ってほしいとの要望があった。
・上記については,後日メールする旨返事をした。
・東氏より,当方のシステムを使ってみたが,非常に分かりやすいとの感想があった。弊社のシステムは特に問題ないのではないかと思われる。
・戸塚氏からは,上司に説明したところ,テストについてもよろしくお願いしたいとの指示があったとの話があった。
・これに対し,当方からは,一緒に相談しましょうと回答した。
・次回の打ち合わせは来週の水曜日くらいとの話になったが,その日は東氏の都合が悪いかも知れないとの話になり,結局,その場では決められなかったため,後日調整しましょうという話になった。
・全体的には,大きな問題はなかったと思われる。このまま進んでいけば,よいのではないかと感じました。
以上  



販社との打ち合わせ結果の報告について
藤井  

1.概要
  • 全体的には,大きな問題はなし。このまま進めていくことに問題はないと判断。なお,先方からいくつかの要望,意見があったが,すべて対応可能。
  • 次回の打ち合わせは先方の都合により後日調整。
2.詳細

 a.先方意見と対応
  1. 先方より,当方が提示した処理画面の操作性が問題なので,見直してほしいとの要望があったので,当方にて検討することで了承いただいた。
  2. 先方から,社内の情報提供に使いたいので,弊社が提供するシステムの機能と画面イメージをメールで送ってほしいとの要望があったため,後日メールする旨返事をした。
  3. 東氏より,当方のシステムを使ってみたが,非常に分かりやすいとの感想があった。弊社のシステムは特に問題ないのではないかと思われる。
  4. 戸塚氏からは,上司に説明したところ,テストについてもよろしくお願いしたいとの指示があったとの話があったため,当方からは,一緒に相談しましょうと回答。
以上  

芦屋:なるほど,では,この添削結果を説明してみてくれないか?

坂本:はい・・・まず,構造化して,概要と詳細に分離しました。概要には,「大きな問題はなく,このまま進めていくことに問題はない」ということ,「次回の打ち合わせを後日調整」というスケジュールの話しをもっていきました。また,2.の詳細には,先方意見と当方の対応(案)を含めて「a.先方意見と対応」というタイトリングにしました。

芦屋:了解。坂本,いいか。両方を見比べると,君が添削した方がかなり分かりやすいだろ?概略と詳細という具合に「結論や総論」と「各論,個別意見」を分離して表記分けをするだけでこんなに読みやすくなる。

坂本:そうですね。

芦屋:読みやすい文書という意味では,雑誌なんかが参考になる。雑誌は大見出し,小見出しを上手くつけている上に,情報のグルーピングが上手いんだ。これは,読者に読みやすくするためだよ・・・ビジネス文書も一緒だ。まず,読んでもらう工夫が非常に重要になる。

坂本:それは,そうですね。

芦屋:でもな坂本,まだまだ添削の余地はある。

坂本:・・・そうですか。

芦屋:そうだ・・・僕は前回5つのテクニックを説明した。でも,残念ながら君の添削はそれを全部網羅できていない。だから,僕と一緒に考えていこう。ところで,坂本,文書をチェックするポイントはどれくらいあると思う?

坂本:・・・そうですね・・・よく分からないな。いろんな目的で,いろんな文書があると思うし。

芦屋:そうだ。文書はいろいろな目的,さまざまな内容で表現される。でも,基本的には同じルールでチェックしていけばいいんだ。

坂本:同じルール?

芦屋:そう,当然,細かく言うといろいろなポイントがある。学術論文なんかはいろんなルールがあると思う。でも,僕らが書くのはビジネス文書。それも,大半は報告書や議事録,企画書,指示書など,他人に理解してもらうための文書。だから,そういう観点・・・わかりやすく,説得力のある・・・納得感のある文書を書けばよいんだ。だから,そういう観点がチェックポイントになる。

坂本:それは,そうですね。でも,どんなポイントが説得力をもって,分かりやすいものに貢献するのか・・・

芦屋:了解。それを説明していくよ。君も知っていると思うけど,僕はこの会社で働く前には教育コンサルタントをしていた。コミュニケーションやヒューマンスキルを指導する立場の人間だ。そして,僕は多くの人が書いた文書を添削する仕事もしていた・・・そして僕は,たくさんの文書を添削してきたのだけど,いつも指摘する内容は同じようなことであることに気づいたんだ・・・つまり,いくつかのポイントを押さえれば,わかりやすく,説得力の高い文書は書けるということに気づいた。それから僕は頭の中にチェックポイント集を持つようになった。

坂本:文書を上手く書くためのチェックポイント集ですか?

芦屋:そう。非常に簡単なチェックポイント集なんだ・・・それを暗記していれば,文書を上手く添削できるようになる。当然,それは僕のケースであって君や君を含む他人にもそのまま適用できるかは保障はできない・・・でも,かなり参考になると思うし,たぶん,ほとんどそのまま使えるかも知れないと思っている。

坂本:それは,助かりますが・・・でも,僕に教えてもらってよいのでしょか?

芦屋:僕は君に僕のノウハウを伝えていきたいと思っている。だから,君に教えたいと思う・・・君がこれを理解して,自分のものにできれば,君のオリジナルなものを追加して君の部下・・・藤井に伝えていってほしいと思ってる。どうかな,聞いてみたいか?

坂本:はい,お願いします。

芦屋:では,僕が文書をチェックするときのポイントを言うよ。


芦屋の文書チェック項目

(1)構造化(ストラクチャー)
  • 同じテーマの話をグループにして,適切に項番を振ってタイトリングしているか。⇒(EX:(1)先方の要望,(2)先方の意見,(3)当方の所感(読み),(4)今後の予定など)
  • 適切にレイヤ(階層)をもっているか。⇒(EX: (1)概要⇒(2)詳細,(1)大項目⇒中項目⇒小項目 など)
(2)事実と意見の分離
  • 事実と意見が正しく分離されているか。
  • 事実は客観的で反論の余地がないか。
(3)主張のルール
  • 主張が明確か。分かりやすいか。
  • 主張には根拠があるか。
  • 根拠が明確か
(4)主語(主体)の明確さ
  • 主語(主体)が明確か。
(5)省略の正確さ
  • 省略されすぎて,わかりにくくないか。⇒(文書を書くことになった事項の主旨や背景など。分からない場合,分かりにくい場合は,項番に入れるか,適宜カッコや脚注で補足)

芦屋:この(1)~(5)が5つのテクニック。前回説明したものだよ。僕はこの(1)~(5)を重視しているけど,さらに,これに加え以下のような基本的なチェックポイントも見てる。

(6)記載順の適切さ
  • 書く順番は適切か。⇒(EX:報告書や議事録などの場合は「結論が先,各論が後」,「大事なことが先,そうでもないものは後」)
(7)未決,既決,〆切日程,アクションプランの明確化
  • (交渉録的要素の強い報告書や議事録における)未決,既決,〆切日程,アクションは明確か。⇒(EX:ペンディング項目,決定事項,決着時期を一覧化」,「今後の行動計画(アクションプラン)を一覧化」)
(8)無意味な記述の排除
  • 全体の文意に関係しないことが無意味に書かれていないか。⇒(意味のない途中経過,大事でないプロセスなど,紛らわしい表現が記載されていないか)
(9)文章の分かりやすさ,明瞭性
  • 抽象的な形容表現が多くないか。⇒(EX:とても多い,かなり困難,非常に手間がかかる,など)
  • 一文が長すぎないか。⇒(息を吐きながら読んで苦しくならない程度の長さになっているか)
  • 一文の中に長すぎる形容表現がないか。⇒(ある語句の前にたくさんの修飾語が入る長い文が存在していないか)
(10)文書の目的および,読ませる相手のターゲッティング
  • 文書の目的,もたらされる効果が明確になっているか。
  • 読ませる相手が明確か。相手の特性,好みを調査し,把握しているか。
  • 相手,目的に応じた文書構造になっているか。

芦屋:僕は本当に多くの文書の赤ペンを入れてきたけど,チェックポイントはだいたいこんな感じかな。これを覚えてくれればよい添削ができると思う。ちなみに,最も大事なのは(10)だ。文書が駄目な理由はだいたいこのチェックポイントに含まれるんだけど,最も駄目なのが,目的,読ませる相手をターゲッティングしていないものなんだ・・・相手不在の文書は駄目文書になるんだよ。

坂本:確かにそれは・・・でも,私はこんなに覚えられないですよ。どんな文書のどの表記がこれらのチェックポイントにあたるのかまだ分からないですし・・・。

芦屋:問題ない・・・君によいものをあげるよ。僕がチェックしているポイントをシートにしたものだ。

坂本:それは助かりますが・・・

芦屋:問題ないよ。実は,僕が今使っているチェックポイントは,これまでの僕の上司が教えてくれたものがベースになってる。それに,論理学の書籍などで学んだことを加えて考えたものなんだよ。だから,気にすることはない。前に僕は,仕事上のノウハウは上司から部下へ,先輩から後輩へ伝えていくものだと言った。だから君にも伝えたいと思っている・・・いいか坂本,今から藤井文書の添削の答え合わせをするよ。

 私は坂本とこんな話をして,自分の頭に中にしかなかった文書のチェックポイントシートを,坂本や藤井のためにはじめて紙に落としました。

 非常に単純で当たり前のことしか書いていない表なのですが,これが「文書が上手いと言わせる」ためのチェックポイントシートなのです。

 簡単なシートで恐縮ですが,よろしければ,この連載をお読みいただいている方にもお使いいただければと存じます。

芦屋式 ドキュメント・チェックポイント・シート
芦屋式 ドキュメント・チェックポイント・シート
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 次回は,このチェックシートを使い,具体的に藤井の文書を添削しながら,チェック項目を解説します。


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