海外アウトソーシングでは,外国の人々と言葉で話し合ったり文書を通じてコミュニケーションしてビジネスを行うことになります。これまで筆者は韓国,中国,フィリピン,ベトナム,インド,そして欧米等とのプロジェクトの中で,言語や文化の違いによる様々な出来事を経験しました。

 今回は話題を少し変えて,外国語,文化習慣とビジネス成功との関連についてお話しし,最後にコミュニケーションの秘訣について触れたいと思います。

日本語と日本文化に精通し,成功したIT社長

 外国人が日本の言葉を習得し文化や習慣も熟知して,日本企業とのビジネスに成功している例が多くあります。一緒に長く仕事をさせていただいた韓国企業の社長は,日本語がとてもうまく,日本的な対応に優れていたこともあり,日本企業とのビジネスを拡大させることに成功しました。

 ある時,その社長がある米国企業の米国人社長と2人で上手な日本語で話しているのを見て,このように日本語を使いこなす人々が世界には本当にいるのだなと驚いたことがありました。

 知人の中国企業のトップは,日本の大学で学び日本語や日本の文化や市場に精通しているため,日本からのアウトソーシングビジネスの受注拡大に成功しました。また,筆者がお世話になったフィリピン企業の創業者は日本語をあまり話しませんでしたが,日本の文化習慣を熟知し日本企業の人々にうまく応対し,事業展開もタイムリーだったことからビジネスで財を築きました。外国語,文化習慣のマスターはビジネスの成功に大きく影響します。

 昨今日本から東南アジアや中国,インドなどへのアウトソーシングが増えています。そして海外企業の人々が日本からの仕事をうまくこなし事業を拡大するため,外国語として日本語を勉強するケースが増えてきました。もちろん,日本側でも英語や海外対応スキルを磨こうという企業や人材も増えています。

 外国語を勉強するケースには,次の4つがあります。

1. その国の言語や文化が好きで研究する,あるいは何らかの関わりがあり愛着をもっている。ビジネスが目的ではない。
2. 仕事のためにその国の言語を勉強する必要があるが,興味を持っていない。
  言語・文化の類似性が少ないため,習得は比較的難しい。
3. 仕事のためにその国の言語を勉強する必要があり,興味を持っている。
  言語・文化の類似性が少ないため,習得は比較的難しい。
4. 仕事のためにその国の言語を勉強する必要があり,興味を持っている。
  言語・文化の類似性が大きいため,習得は比較的容易である。

 1は,興味をもって日本語を研究・勉強するケースです。インドのM先生は「日露戦争以降の日本人の価値観の変化」というテーマを研究される過程で日本語も習得されています。「牛乳」と「ミルク」の違い,「鍵」と「キー」の違いなど,日本人が気がつかない深さまで研究されているのに驚きました。欧米では,日本のアニメや漫画等がきっかけとなり日本語を学習する人もいます。いずれにしても,愛着や興味が学習の動機となっているケースでは極めて高いレベルの日本語能力をもつ人材を見受けます。

 2のケースには,日本企業の海外生産移転に伴い,国内で生産に携わっていた技術者が,突然海外の工場への異動を命ぜられる場合などが当てはまります。大企業の場合には,日本での社内教育や現地での支援体制が比較的整っていますが,中小企業の場合には自前でやらなければなりません。そして外国(語)が好きでなく社命に従って海外に赴任する場合,問題発生の可能性が高くなります。このような場合,最低限のサバイバル異文化対応教育が効果的です。

 3のケースは,2と同様,海外工場への異動辞令を受けたが,本人が異文化を学ぶ良いチャンスと思って現地の言葉や文化,習慣を習得するよう努力する場合です。学習の意欲があるため,外国語の習得が加速します。しかし,言語や文化類似性が少ない場合はその壁を乗越える効果的な打ち手と努力が必要となります。

 4のケースとは,韓国や中国等漢字圏の人々が日本との仕事をする場合です。言語や文化の類似性があるため,日本語を比較的容易に習得することができます。これは日本人がそれらの言語を学ぶ場合も同様です。現在一番多いパターンであり,中国へのアウトソーシングが多いことからもうなずけます。このケースでは現場経験も踏まえた相当高い日本語レベルの人を見受けます。