「事業フォーカスを決めて、量と質を拡充するためにM&A(企業の買収・合併)や事業提携を実行している」。年商1373億円のITサービス会社、住商情報システムがM&Aを強力に推し進める理由を、同社の福永哲弥取締役はこう語る。05年9月にグループウエアのサイボウズに14.5%出資したのを皮切りに、この2年間で7社に資本参加した。VA・リナックス・システムズ・ジャパンなど、それ以前に手掛けたものもあるが、阿部康行氏が社長に就任した2年前から活発化している。

 事業フォーカスの一つはプラットフォームソリューション。ネットワークやセキュリティ、データセンターなどアプリケーションを乗せるためのITインフラの整備で、この上に基幹システムとなるERPを乗せる形になる。ここは、自社開発のERPソフトProActiveが核になるが、財務会計や人事給与、販売管理といったERPの外側に、グループウエアやCRM、SCM、生産管理などとった周辺ソフトを用意する必要がある。

 その一環から、サイボウズに加えて、CRMソフトを展開するエンプレックスに06年3月に出資し、さらに07年6月に出資比率を33.5%に増やした。SFAの共同開発も視野にあるという。ソフトクリエイトとの合弁会社エイトレッドで、ワークフローソフト開発・販売も展開しており、これもERPの外側という位置付けになる。

 もう一つの事業フォーカスは、製造、流通、金融など業種特化型アプリケーションになる。製造では05年に合併した旧住商エレクトロニクスの生産現場向けCAD、デザイン、生産ラインのシミュレーションなどになる。金融では、06年3月にイーバンクシステム(比率は20%)に資本参加したのは、インターネットバンキング時代をにらんでだ。こうしたビジネスを拡大させるために、M&Aも手掛ける。

M&Aの難しさは人にある

 実は、「M&Aで最初に考えたのは、ソフト受託開発の高度化の分野」(福永氏)であった。ソフト開発やシステム運用のクエスト(4.9%)やJavaベースのソフト開発のイーウェーヴ(10.2%)がM&Aの第一歩だった。「SI技術力は効率化や省力化、低コスト化を超えたものにする」(福永氏)。朝日監査法人の子会社で、中堅・中小企業向けITコンサルティングを展開する朝日ITソリューションを、06年11月に100%子会社したのはその一環でもある。

 ソフト受託開発では、07年3月に中国・大連に100%出資のソフト会社を設立した。同社は詳細設計も担当し、ここから中国のパートナ企業にオフシェアする形になる。「同じ標準プロトコルで開発するために、27社あったパートナを4社に絞り込んだ」(福永氏)。

 次の段階は海外になる。SAPのERPを核に欧米に加えて、07年2月に中国・上海にも運用・保守サポートの現地法人を設立したところ。「グローバルビジネスの拡充は大きなテーマで、そこでのM&Aは経営力も問われる。買ったら生かせるかだ」(福永氏)。ERPの要員確保も重要なテーマになる。

 福永取締役はM&Aの難しさについて、「業務提携しても、本当に一緒にできるのかだ。お互いの利害が一致しない場合、一致点をどこに見いだすかを探し出すのに時間がかかる。人と人の気持ちが大切なので、折り合うまで時間がかかる。やったはいいが、その結果が伴わないことになる」と話す。

 阿部社長は「07年度に中期的成長軌道の確保を目指すことを経営の軸足とする」と、07年4月27日の06年度決算説明会で強調している。社長就任時に掲げた経常利益200億円を諦めたわけでない。06年度の経常利益は約89億円だったので、倍増するには売上高2500億円程度(06年度は1373億円)が必要になるだろう。そして、収益基盤のさらなる拡充には強い玉もいる。そこにM&Aが一役買う。ただし、「敵対的な買収はしない」とする。