IT資源をユーザーが必要なときに、必要な分だけを提供するオンデマンド・サービスを本格的に展開する中堅ITサービス会社が出てきた。IIJ(インターネットイニシアティブ)グループのITサービス会社、IIJテクノロジーだ。ストレージ、ネットワークについで、この8月からサーバーの提供を開始するが、年商259億円、社員500人強の同社は、ITユーティリティコンピューティング環境の整備を進めることで、ITサービスビジネスの確立を目指すように見える。

 IIJテクノロジーは99年にIT資源を標準化したサービスとして提供する考え方を打ち出した。IBPSと呼ぶこのオンデマンド・サービスは、サーバーやストレージ、ネットワーク、さらには運用監視などを部品としてデータセンターに事前に用意しておくもので、アウトソーシングの拡張版に位置付けられる。ユーザーごとにアウトソーシングする範囲は異なるので、標準のサービス部品だけでカバーできないところがあれば、そこはSI(システム・インテグレーション)で対応する。

 このオンデマンド・サービスは当初、インターネット・ビジネスを早急に立ち上げたいベンチャー企業などを対象にしていた。ネットビジネス参入には、IT導入のスピードと、IT資源を柔軟に拡張・縮小できる仕組みが欠かせないからだ。もし、そのネットビジネスがあたれば、当初の10倍、100倍の規模のIT資源が瞬く間に必要になるかもしれない。その一方、ヒットしなかったら、そのビジネスから直ちに撤退することもある。IT資源の活用も、こうしたビジネス構造に柔軟に対応できる仕組みが求められている。

 IIJテクノロジーが今回、サーバーをIBPSのメニューに加えたのは、エンタープライズ領域にターゲットを広げるためだ。これまでもSIやアウトソーシング事業を展開してきた同社は、エンタープライズ分野では個別案件ごとにサーバーを用意してきた。ユーザー企業が購入する場合もあるし、同社のサーバーを利用する場合もあったが、いずれにしろユーザーごとにサーバーを調達してきた。

 サーバーを複数ユーザーで共有する難しさなどもあった。ストレージをオンデマンド型にいち早く対応できたのは、大容量ストレージを、例えば1社当たりGB単位に小分けし、データ保管用に使用する仕組みは容易できたという。ならば、サーバーも仮想化技術などを使い、分割すればいいという考え方もあるだろうが、「コストメリットが出せなかった。分割すると、クロックやメモリーなどの単価が高くなってしまう」(立久井正和・技術統括本部長補佐兼IBPS本部長)。1社ごとに小規模なサーバーを使ったほうがコストを抑えられる。「ユーザーごとに必要なOSやソフト、アプリケーションが異なる」(同)ことも、サーバー資源のオンデマンド・サービス化を遅らさせた理由だという。

2年間でサーバー1000台分を売る

 そこで、データセンターにブレードサーバーを配置するものの、ユーザーのシステムとプールしたサーバーを効果的に接続するために広域イーサネットのバックボーン技術やIT資源をユーザーの要求に応じて割り当てるプロビジョニング技術などを採用することで、問題解決を図った。

 「ネットワーク構成やシステム構成を自由に選択できないホスティング・サービスなどとも異なる」(立久井氏)。例えばWebサイト向けなら、イントラネットには使えないなど用途が限定されてしまうのに対して、同社のIBPSはプールしたサーバーの汎用的な活用を可能にしたという。特定のアプリケーションに使っていたサーバーを、別の用途に切り替えて使用することも容易にできるという。

 このシステム構成で、最大1000台のブレードサーバーをオンデマンド・サービス用として用意する計画。「データベースなどフロント系に年間500台から600台のサーバーを新規に使っているので、これらユーザーを取り込める」((立久井氏)とし、2年間で満杯になると見ている。特に、「業務量が例えば年末年始と夏季で大きく異なるなど、季節変動するシステムに適する」(吉川俊・営業統括本部長補佐兼営業企画部長)。

 この仕組みをアプリケーション・ベンダーの共有プラットフォームとして活用することも考えられるが、まずは自社ユーザーへの適用を優先させる。すでにストレージやネットワークのオンデマンド・サービスは、同社のアウトソーシング・ユーザー250社の半分、100社以上が活用しており、売り上げの3分の1がオンデマンドを含めた月額収入のサービスが占めるまで拡大している。

 オンデマンドは、ITサービス会社が人月商売から脱却する有効な道にもなりそうだが、そこには高い技術力も必要になる。

 
※)本コラムは日経ソリューションビジネス07年7月15日号「深層波」に加筆・修正したものです。